閑話293・『お上お手』

躾けるのは好きだが躾けられるのは嫌いだ、しかしキョウはそんな事をわからずに―――灰色狐と祟木の次は私?


しかし困った事にそれに喜びを感じている自分もいる、尾があったら左右に振っているだろう、キョウも私も……向かい合う。


机の上に行儀悪く座りながらキョウが頬笑む、邪悪な笑い、何も知らない人間が見たら天使の笑顔に見えるだろう、しかし私はキョウに立たされている。


命令で目の前に立つ様に強要されている。


「んふふ、お手」


「……」


ぽふ、お手をするのは得意になった、何度も何度も何度も気がおかしくなるまで強要された命令は私の思考を奪うには十分だった、指紋が無くなるんじゃないかとさえ思う。


キョウは命令通りお手をすると満足そうに微笑む…………自分のプライドを崩すだけでキョウがここまで喜んでくれるのだ、だとしたら私のプライドなんてそんなものだ、全てキョウのものだ。


ずっと前から、最初から。


「偉い偉い」


「ありがとぉ」


「ありがとうじゃないだろ?」


「ありがとう……ございます」


「んふふ」


キョウは指先で私の横腹を突きながら楽しそうに笑う、セクハラだよォ、しかし私の体は快楽に喜ぶだけで何とも頼り無い、頭がおかしくなる程に何度も何度も『お手』を強要、飽きる事は無い。


そして私自身もキョウの反応を見て喜んでいる、こんなに単純な事………すぐにでも飽きてしまいそうなのに何故か飽きない、飽きないばかりかもっとお手をしたくなる、お手をしたら褒めてくれる。


キョウの一部ではこんなに上手なお手は出来無いよォ。


「上手上手」


「キョウ、嬉しい?」


「嬉しいぜ、俺より賢い俺自身のキョウが愛玩動物に成り下がって」


「成り下がって?」


「俺の方が上だと、わかる」


「さ、最初からそうだよォ」


「お手」


「あう」


「あははははは、バーカ」


「キョウの前だと何時でもおバカだよ」


「ふふっ、可愛い」


お臍の辺りを指でグリグリされる、衣服と擦り合わせるように。


「ばぁーか」


もっと罵って欲しい。

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