閑話286・『サイコ自分2』
「浮気をするのは誰だぁ」
「俺だぜ」
糖度と粘度があるのに妙に透き通った女の子の声、俺と全く同じ声なのに俺には全く別のものに聞こえる。
読み掛けていた絵本から顔を上げて正直に答える、怒っている感じでは無く寸劇の匂い、しかしそれが間違いだった。
「キョウの浮気にギリギリ耐えられるまで大人になった私ィ、んふふ」
「へえ、耐えられ無い時はどうするんだ」
「え、暗躍するけど」
「え、止めて」
当たり前のように呟かれたソレに全身が震える、どれだけの暗躍をしてどれだけ俺を苦しめて来たのだろう、俺の愛する者を何時も奪おうとする。
可愛らしい嫉妬では無い、殺意のある嫉妬。
殺意しか無い嫉妬。
「ちょちょちょ、お話するぜ」
「んー、絵本読んでて良いよォ、そんなキョウを見てたいし」
「いやいや、う、浮気は控えるから」
「?」
「こわっ」
サイコな自分の首傾げ、さらに疑問符、さらに怖い、さらにさらに恐ろしい、一瞬でベッドの隅へと移動する。
しかし猫のような追い詰め方で追撃する。
「だから浮気しても良いって……暗躍するだけだから」
「……暗躍してグロリア嫌わせようと洗脳したりお気に入りの一部を消そうとしたり……最低な暗躍ばかりだぜ」
「えっへん」
「―――――ちょ、近付くな」
「え、何で?」
大好きだから近付くよ、そんな感じ、でもその大好きにはドロドロとした情愛が垣間見える。
ドロドロし過ぎて何も見えない。
「ひぃいいいいいいいい」
「避けるの簡単」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「近付くのも簡単」
「く、来るな」
「洗脳するのも一部を消すのも本当は簡単なはずなのに」
全く俺の言う事を聞かない。
「何でだろうね、キョウ」
「ご、ごめんなさい」
もう体で伝えるしか無いので土下座した。
愛情はセックス、誠意は土下座。
学んでます。
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