閑話285・『サイコ自分』

「浮気をするのは誰だぁ」


「俺だぜ」


私の呟きに悪びれもなく答えるキョウ、笑顔が眩しい、読み進めていた絵本から顔を上げて満面の笑み、ど、どつきたいよォ。


最近は餌やり係と祟木と灰色狐の開発に余念が無い、余念が無さ過ぎて私の扱いがやや雑になっている、折角の湖畔の街なのに室内で絵本読んでるしィ。


「キョウの浮気にギリギリ耐えられるまで大人になった私ィ、んふふ」


「へえ、耐えられ無い時はどうするんだ」


「え、暗躍するけど」


「え、止めて」


また絵本から顔を上げてうんざりした顔をするキョウ、小刻みにカタカタ震えてて小動物を連想させる、え、止めないけど。


でも限界まで我慢する術を覚えたからそこを褒めて欲しいんだけどォ、何かを疑う様な左右の色合いの違う瞳、しかし改めて見ると可愛い、もっと怯えさせたい。


「ちょちょちょ、お話するぜ」


「んー、絵本読んでて良いよォ、そんなキョウを見てたいし」


「いやいや、う、浮気は控えるから」


「?」


「こわっ」


さささ、恐ろしい速度でベッドの隅に移動するキョウ、距離を置かれても距離を詰めれば良いだけなので全く無意味なのにねェ、ベッドに腰かける、ぎしっ、二人分の重み。


本当は一人分の重み。


「だから浮気しても良いって……暗躍するだけだから」


「……暗躍してグロリア嫌わせようと洗脳したりお気に入りの一部を消そうとしたり……最低な暗躍ばかりだぜ」


「えっへん」


「―――――ちょ、近付くな」


「え、何で?」


近付こうとすると移動するキョウ、それもまた小動物の如し、首を傾げながら肉薄する、壁際に追いやると絵本を投げて来る、無論避ける。


どうしたんだろう。


「ひぃいいいいいいいい」


「避けるの簡単」


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


「近付くのも簡単」


「く、来るな」


「洗脳するのも一部を消すのも本当は簡単なはずなのに」


どうしてこう何もかもが想定外なんだろう。


「何でだろうね、キョウ」


「ご、ごめんなさい」


鼻水と涙で塗れたキョウは土下座した。


意味がわからないよォ。

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