第459話・『灰色子供』

キョウにも困ったものだ、麒麟の時のように体内に潜りたいとか。


好きになった生き物に寄生したがる悪癖をどうにかして欲しい、しかもかつて寄生された麒麟の姿でサソリに寄生したいとか。


だけどキョウの我儘を叶える為に自分がいる、どうにか願いを叶える為に頭を抱えるよぉ、敵の攻撃を避けるので精一杯、時折攻撃、うーん。


観察する、サソリと水晶の混合生物、あとは水生の生き物が何種か……サソリとその組み合わせは素晴らしい、ちゃんと『理解』している。


節足動物門鋏角亜門クモ綱サソリ目に分類される動物の総称だ、その見た目は一度見たら忘れられない、前方に鋏を持っていて尾に毒針を持つモノが一般的だ、しかし命にかかわる毒を保有するものは一部だけだ。


最近の論文では4億3千万年以上前からこの世界に存在した事がわかっている、現存する陸上生活史を持つ節足動物の中では世界最古にあたる古めかしい生き物、それを魔物に改造して使役するのは悪い事では無い。


そして初期のサソリは水生動物である、陸上進出は他の生物に遅れたがそれは紛れも無い事実、故に水生動物の細胞を器用に操ってこのような戦い方を――――キョウと同じで様々な生き物の混合体。


「キョウ、はやくはやくはやく、あいつのたいえきにおぼれたい、おぼれしにたい」


『待ってね』


「おぼれしにたい、なかにはいってうちがわからかたいこうらをひふをこんこんこんこんたたきたい」


『少し時間を』


「うんちになってそとにでたい、あいつのちにくといっしょになって、はやくはやく、さくせんかんがえろ」


『少し待てって言ってるのがわからない?』


「わかんなーい」


『叩くよ』


「ひう」


黙る、サソリのキメラの侵入口を探しているのに五月蠅いなァ、キョウの願いを叶える為に頑張っているのに…………物凄く五月蠅い、何だかうーうーうー唸っているし、うーうーうー五月蠅いし。


必殺の一撃が洞窟内の外壁を砕き粉砕する、あの鋏はあらゆるものを切り裂き砕くのだ、流石に上半身と下半身を真っ二つにされるのは再生に―――尾の方は何度も突かれているが毒が面倒なだけで問題無い。


浄化に手こずる事も無い、しかし相手に攻撃の決め手が無いようにこちらにも無い、そもそも電光が解禁されようがサソリの中に入りたいとか我儘言ってる子がいるしっ、あー、しかもそれを期待されている。


「にゃー」


片腕を吹き飛ばされながらキョウは楽しそうに笑う、既に麒麟の姿は止めてキョウの姿に『巻き戻し』されている、自分の体が一番再生に手こずる事が無いしねェ、ダラダラと口と鼻から血が流れ出る。


サソリの化け物、その形状から陸生甲殻類と勘違いされがちだが甲殻類との類縁関係は遥かに遠い、その正体は鋏角亜門クモ形類に属している、クモ類やヒヨケムシ近縁である事からもその事実が証明されている。


符節や脚部の形状にも同様のものが見られる、故にその装甲は意外にも『とても柔らかい』……鳥にも好んで捕食するものがいるくらい、しかしこのキメラは水晶で強化されている、魔力で構成された特殊な水晶。


水晶?あ。


『いけるかも』


「わーん」


『どっち?……妖精の透過で中に侵入出来るかもだよォ、んふふ、生き物と判定されるか生き物じゃないと判定されるか』


生物の透過は難しい、無機物の透過は可能、目の前の化け物はどっちだろう?


人工的な水晶と判断されるなら―――いける。


「こーん」


『あ、狐は正解だよ』


灰色狐の血を継いでるからねェ。

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