第457話・『さそり座のサソリ』

地底湖、透明度の高いソレが眼前に広がっている、水面に足を踏み入れる、妖精の力で水面を蹴りながら気配を探る。


いる、この冷たく美しい水中に……透明度が高いはずなのに確認出来無いのはおかしい、そう思った瞬間に泡立つ『化け物』が輪郭を――動いて初めて確認出来る。


体に纏わり付いていた小さな泡、だとすれば陸で活動する事も可能な生き物、俺が訪れるまで陸にいたのだ、その事実に驚きながら水面を蹴る、何か巨大なものが鼻先を……こわ。


そいつが姿を現す、水晶で構成された不可思議な生き物、器用に水中を泳ぎながら接近して来る、波飛沫、視界が乱れる、そして何かが腹に突き刺さる、このままでは『引き戻される』――さらに蹂躙される。


刺さったソレは返し刃があるようで抜けない、仕方が無いので力尽くで抉り抜く、いたい、そのまま水面を転がりながら逃げる、妖精の力が減少する、僅かに沈む我が身に舌打ちをする。


「でけぇ、いてぇ」


『早く再生しな』


「破瓜の痛みっ」


『……大体戦闘では腸出してるじゃん』


「そうだった、けふ」


水晶の化け物、煌めきを放ちながら死神として俺を追撃する、頭胸部と腹部はくびれずに一つになっている、それが脈打つと加速度が上がる、腹部は前腹部と後腹部に分かれていて交互に脈動している、そこが『泳ぐための』器官か。


後腹部は長い尾部になっている、俺を突き刺したのはコレだな、曲げ伸ばしが柔軟に出来るようでゆらゆら揺れるソコがどのような角度で攻撃を繰り出すのか予想出来無い、先端の尾節は僅かに膨らんでいる。


『しかも毒だねェ、キョウに毒は通用しないけどねェ』


「妖精の寿命で無限錬金術があるので」


『二人に感謝しな』


「やだね」


俺が俺に感謝とか意味不明だぜ全く、俺の周りをグルグル回る水晶魔物、無機質な殺気が好ましい、そうだな、人間のように『欲』が見える敵はムカつく、すぐに殺す、即座に殺す、今すぐに殺す。


でもこいつは侵入者を破壊する目的でここに生息している、錬金術で創造された魔物、故にその目標がシンプルで欲が無い、故に好ましい、ああ、創造された生物は大好きだ、しゅきしゅき愛してる、ラブラブ愛してる。


キュン。


「キュン死するぜえええええええええええええええ」


『腸出てるからね』


「いや、精神的に」


『精神的にっ?!』


そんなに驚かれても困る、即座に妖精の感知で弱点を探る、見た目通りかたそうな装甲、それ以前に水中を移動するので攻撃の手段が無い、麒麟の電光を放とうにも回復中なので同時展開は出来無い。


鋏角は小さな鋏状になっている、触肢は長く発達した鋏になっているのも最大の特徴だ、歩脚は四対なのだがその合間にヒレのようなものが見えるぜ、第一対が最も『短く』後方の歩脚ほど太く逞しくなる。


第四脚の付け根にはサソリの仲間である証である櫛状板と言われる整髪用の櫛の形の器官が左右一対で存在している、透視をすると腹部の腹面には各節に一対ずつ四対の書肺が存在しているのがわかる。


サソリと水生動物の特徴を兼ね備えた魔物、そもそもサソリは先祖の時点で水中にいた時間が長い、ゲジゲジよりも地上への進出が遅れたシャイな生物だ。


「ううううううう、回復するまで逃げるぜーー」


『逃げろ逃げろー』


「さそり座の女はしつこくで嫌だぜーー」


『そもそもサソリそのものだし、そいつオスだし』


オスかっ、メスに優しくしろよ!

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