閑話279・『光と闇と毛並み』

可愛い子狐が浮気をするので少しお仕置きしようとしたら母性を弄られて蔑まれて壊されて直されて今日もキョウは可愛いのじゃあああ。


儂の細胞を活性化したせいでキョウに狐の耳が生えておる、しかし儂のことなど興味が無いと言わんばかりに……ベッドで『伸びた』尾の毛づくろい中。


え、それって母の仕事じゃろ?キョウの尾をペロペロしたいのじゃ、いや、うん、獣として母として当然の行為ではあるし好意でもある。


「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


やがて人の姿を捨てて子狐そのものになったキョウは毛繕いを本格的に開始する、人間の姿の時とは違って儂の細胞が活性化しているせいか灰色の毛並みだ。


しかし『下手』なのかどうにも……儂がしてやる、儂は上手じゃ、キョウ……毛繕いをおろそかにしてはならん、ベッドで寝転ぶ子狐にゆっくりと近付く、これ、儂のじゃ。


キョウが気付いて停止する、指を立てる。


「きゅーん」


「良く聞くのじゃキョウ」


毛繕いはβ-エンドルフィンの放出を促進する、故に肉体と精神を馴染ませる緊張緩和の効果が期待出来る、故に体中を細かくケアする必要があるのだが『いい加減』なやり方ではそれを得られない。


幼体が自ら行うよりも母親による毛繕いの方が効果が期待出来る、一説では標識組織のグルココルチコイド受容体が増殖する成果が見られている、つまりは親が子の毛繕いをする事で『精神の安定』と『肉体の調和』を与えるのだ。


甲状腺刺激ホルモンとセロトニンの濃度が急激に変わる事で受容体数も同時に変化する、受容体数の急激な増殖は副腎皮質ステロイドの分泌に対して『マイナス面』を減らす、つまりはストレスの軽減へと繋がる――――母の愛でストレスの無い生活。


どうじゃ、説明終わりっ。


「どうじゃ!」


「うるせ」


「え」


「うるせ」


「え、ええ」


「自分でするからあっちいけ」


子狐の姿になろうがキョウの声はキョウの声で―――冷たい色で儂を苛む。


「せ、説明を」


「長くて眠たかった、ぺろぺろ」


「うぅ」


「おれ、あたまわるいから、わからん」


「うぅうううう」


「?そのなんとかを放出するのはおれがなめてもいいんじゃね?」


「ふえ?」


「ぺろぺろしちゃるー」


「や、やめ」


沢山分泌されたのじゃ。


やった。

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