第449話・『ズリ山さん』

廃坑における危険性を改めて考えると早々に立ち去りたいのだが『ボス』を倒さないとグロリアのいる世界に戻れない。


しかしここはやはり空間移動しただけで現実にある世界だ、ここまで雪塗れの世界があるなんて不思議だがそう確信する。


このように突然作業員が去ったような『捨てられた』坑道……埋め戻しはされていない、長い年月を経て落盤により埋没している箇所もある。


その影響で地表面が大規模に陥没する事例が時折発生する、そして出水量の多い鉱山では坑内に収まり切らない排水が圧力などから地面から噴出する事もある。


「可愛い女の子の餌なら嬉しいぜ」


『レイは可愛い子にモテるからねェ、きっと美味しいよ』


「便利な弟でお姉ちゃん幸せ」


『餌か……餌を捕まえる用の弟かぁ』


「ふふふふふふ、便利な家族は大好き」


坑道には施設や装置を撤去した後の竪穴などが大量に存在している、落とし穴状態になっているソレを妖精の探知で回避する、今更落とし穴で困るのは恰好が悪い。


また坑内は立体的かつ細分化されている、道に迷わないように『奥にいる命』に狙いを定めて足を進める、美味しそうな気配、可燃性ガスや有毒ガスが発生している場所では錬金術の等価交換で無害化する、捧げるのは妖精の無限の命。


貧酸素化や崩落や浸水や魔物の襲来、色々あって楽しい。


「今宵のファルシオンは血に飢えている」


『キョウと一緒でその子はずっと飢えてるよねェ』


「じゃあ何時も飢えている」


『かっこわる』


「二十四時間飢えている」


『切実だねェ』


「一人と一本で四十八時間飢えている」


『その計算はおかしいよねェ』


「もう、おかしくないぜ」


ファルシオンを振り回しながら高笑いする、鉱山はその資源がもたらす価値によって意味合いを大きく変える、規模を見てみるとここはかなりのものだ、経済的事情や地理的要件を考えるに道具の豊富さに注目する、予算はかなりあったはず。


後は環境条件によって規模や事業は変化するが雪山だしなァ、何処かに作業員が入れ替わり出来るような施設つーか村でも拵えていたら話は変わるが………兎に角、そんなに悪い条件では無いのか、厳しくはあるけどな。


「選鉱場所も中にあるんだ、そりゃ外は雪だから施設を纏めた方が効率いいよな」


『ここはそんなに寂れて無いね、持ち主が趣味で発掘してここだけ使ってるのかなァ』


「女の子は宝石好きだからな」


『宝石だと決まったわけでは無いけどねェ、私は宝石よりキョウのが好きだよ』


「黙れ」


『うっ、厳しい』


「わはは」


採鉱して手に入った鉱石を物理的に選別する場所を設けるのが通例だ、そのまま鉱山の中に設ける場合もあるし外にそれ専用の施設を設ける事もある、有効な鉱石とそうでない鉱石を様々な方法で分別するのだ、ちなみに利益にならない鉱石は尾鉱やズリと呼ぶ。


しかし場所が変われば利益になるのでズリ専用の回収業者も存在している、その土地では利益にならないものでも土地を跨げばお金になる………どのような鉱石も決して無駄にはならない、選別の方法としては人間の目を利用して選別する手選鉱が最も一般的だ。


だけどそれが出来る職人を育てるだけでもかなりの年月を必要とする、近年では鉱石の比重差を利用する比重選鉱、鉱石の磁性で割り出す磁力選鉱、鉱石の親水性を利用する浮遊選鉱などが存在している。


「ここは複数のやり方でしてるんだ」


『まあ、精度を高める為でしょうねェ、こっちだよキョウ、こっちに餌がいる』


「うへへへへ、レイの女寝取ってやる」


『目的が物凄く下品な方向になってるよぉ、こわ』


先に手選を行なって浮遊選鉱を行なっていたようだ、複数の方法を取り入れるのは手間が増えるし人員も必要とする、しかしそれだけ精度を高める事も出来るし片方が何らかの事情で『稼働』しなくなってももう片方で埋められる。


そして選別された有益な鉱石は精鉱と呼称され次の製錬に回されるのだ。


「ズリ山あったっけ?」


『ん、幾つか見えたねェ』


「何があったんだっけ?」


『はぁ?自分で言ったんでしょう?ズリ山だよォ………はっ?!』


「えろい」


『キョウのバカっっ!!』


尾鉱……ズリは鉱山周辺に廃棄されるのが通例だ、そこから業者が引き取るなりするのだが……その山の事をズリ山と呼ぶ、ふふふふふふ。


キョウの可愛い声でズリ山。


「やったぜ」


『―――――覚えてろ』


いや、絶対忘れねーから。

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