第447話・『うるさいよ、敵よりちょいうるさいよ』
ロングソードによる攻撃を掻い潜りながら何度もファルシオンを叩き込む、ダメージは確実に通っている、打ち込む度に幾何学的な『視認』出来る魔力が減る、この魔力そのものが魔物?
勇魔の生み出す魔物の特徴はこの幾何学的な『形』にある、まさか魔力そのものを魔物にして鎧に取り付かせるとは思わなかった、鼻歌混じりに攻撃を避ける、余裕があるわけでは無く強がっている。
ロングソード、その由来は馬上でも使用されていたものを歩兵用の短い剣と区別して呼ぶようになった、その名の通り剣身が長いのだがそれと同じようにグリップも両手で持てるように長くなっている。
両手で力強く斬撃を打ち込める仕様だ、故に俺は防御の度に膝を折るか吹き飛ばされる羽目になる、衝撃は並大抵のものでは無い、人間だったら防御の度に骨がどうにかなっている、二人の戦いの余韻で雪が僅かに溶けている。
それがまた凍り始めているので軽く地面を跳ねるだけで滑るようにして攻撃を避けれる、しかし俺と違って自重がかなりある敵はこの凸凹の表面をテンポ良く蹴る事は出来無い、俺の方が戦う度に速度を上げている。
「しかし粘る、基礎がしっかりしてる」
『ちゃんとした剣術だ、努力したものをレイ如きに使われて可哀想だねェ』
「お姉ちゃん、頑張ってレイの作品ころーす」
『あ、あはは』
「ほら、キョウも一緒にっ」
『こ、ころーす』
「んふふふふ、俺にこんなものをプレゼントするなんて可愛い奴、そして死体さんは可哀想だ、ダメだぞ、レイ、ころす」
一番狙っているのは相手の攻撃方法の消滅だ、つまりあの厄介なロングソードを何処ぞに吹き飛ばしてタコ殴り状態にしたい、体に打ち込まれた毒は既に妖精の力で完治している、生命の無い物質も液体も全て操って支配出来るからなっ。
つまりあの鎧のトゲトゲ毒は脅威にならないのだ、脅威になるのはロングソードだけだ、ロングソードの持ち方は主に二通り存在する、一つは親指の付け根の部位と人差し指と親指のV字型になっている谷の部位に柄の裏刃側を合わせる形の方法。
そしてもう一つの方法は四指の付け根の関節、手の甲に四つ突き出ている関節の裏側にへりをキッチリ合わせて親指を突き立てて持つ方法だ、親指を左右に移動させる事で剣の表刃、裏刃を即座に切り返せるのが最大の特徴で親指で固定する事で握りが安定する。
こいつは後者だ、即座にあらゆる事情に対応するための持ち方、前者は安定感を追及したものでどちらかが優れているわけでは無い、どのように対処するかを思考して自分に合う持ち方を決めるだけ、しかし後者の方が『吹き飛ばせる』可能性は高いはずなのにっ。
「ひぃ」
『ほらほら、避けないと死ぬよ』
「当たり前な事じゃね?!」
『ほらほら、避けないと裂けるよ』
「それも当たり前な事じゃね?!」
『ほらほら、ええと』
「無いならいいぜ!?」
『ほらほら、ほらほら』
「単なる煽りでムカつく!!」
『ほらほらほらほらほらほらほら』
「やめてね!!」
さて、どう切り崩す。
敵よりキョウを。
うるせぇえええええええ。
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