第446話・『バーコードがあればいいんだ、よろい』
奇襲をしているはずなのに奇襲されるとは何たる矛盾、咄嗟にファルシオンを抜いて身を庇う、重厚でいて『生物の油』に塗れたファルシオン、容易く斬撃を弾く。
生物の油が攻撃を弾くためのからくりになっている、ぬるり、しかし普通の剣ならば切れ味が落ちるので本来ならばあり得ない形、鈍器として使われる『剣』もどき故の特性。
人間もどきに俺に相応しい、足場は雪なので踏ん張る事が出来無い、バランスを崩して倒れそうになる所に連続の斬撃、ちっ、舌打ちをしながら雪を蹴り上げてかく乱する、雪は二重の意味で厄介だ。
顔面に浴びれば視界が奪われる所か冷たさで思考が一瞬停止する、しかし敵は『人』では無いので何処まで通用しているかわからん、逃げ足には自信があるぜ、一気に距離を……ふひー、疲れた。
「鎧の化け物か、中身は美少女かな?」
『多分おじさんだよ』
「お鬚の似合うダンディなおじさんかな♪」
『何でもいいんだよねェ、全く、何でも股を開くんじゃないよ』
「?弟に股を」
『レイくたばれ』
「もう」
異様な魔力を放ちながらこちらを向く『魔物』を睨む、溢れる魔力が幾何学的に歪む、魔王軍の元幹部とも戦った経験があるがそのどれとも違う、低級なのか中級なのか高位の魔物なのか判断が出来無い。
高位の魔物の条件である人型ではあるが人型つーよりは鎧型??雪で足場が安定しないのにまるで何も着込んでいないかのような高速の斬撃を繰り出して来た、頬に走った僅かな痛み、血が滴り落ちて雪を『俺色』に染める。
プレートアーマー?何時のものか中々に判断し難い、頭部を保護するヘルメットには僅かな罅が入っている、ヘルムやアーメットとも呼ばれるソレには第三の目のように毒々しい宝石が紫色に光ながら怪しく蠢いている、宝石?器官?
喉を守るゴルゲットには何度も切り付けられたかのような痕跡が見られるぜ、ラッパーと呼称されたりもするソコは急所であるはずなのにどうしてそこまで攻撃を許す?過去の戦いを想像して冷や汗を……こいつ、死にたいのか?
「何だ、あの速度と足捌きなのにあんなに首に攻撃を……え、俺が弱い?」
『あれは自殺しようとしたんじゃないかなぁ、持っている剣と幅が合うし』
「死にたい?」
『あの幾何学的な魔力に支配されて何世紀も戦ってるのかも、勇魔は……レイはキョウ以外にはそんなものだよ』
「あいつは、やさしい」
『キョウにだけ優しい、どうするのォ?』
「わるいひとじゃ、ない、でも、もう、しんでる?」
『そ、死んで操られている』
ポールドロン、スポールダーとも呼ばれる肩当てにはトゲトゲとした装飾、さらにそこを補強する為のガルドブレイズもしっかり現役だ、まるでイノシシのようにそこを突き出す形で突進して来る、プレートアーマーは全身が計算された恐ろしい武具。
しかしそれは兵器にもなる、魔物の能力を加えたらそりゃもう……横に飛ぶようにして攻撃を避ける、鎧の隙間は限りなく少ない、可動部を狙うしか無いがそもそもそのような場所では魔物にとって致命傷にならないのでは?人間とは違うんだぞ。
肘を守護するコーター、そこが鋭い角度で俺の頬を突く、骨が砕ける音、そのままの追撃を許さずに腕を絡めながら雪の滑りを利用して『移動』させるかのように自然に投げ飛ばす、その為に足場の雪を『足で遊んで』ゆるゆるにしてたのだ。
「いてぇえええええええええええ、しねえええええええええええええ」
『死んでるって』
「いてええええええええええええ、いきてええええええええええええ」
『敵だよォ?』
「うるせぇえええええええええええ」
『私に対して?!』
前腕を守護するヴァンブレイスと一般的に呼ばれる部位には細かい刃物が取りつけられている、そのヴァンブレイスの上腕部品をアッパーカノン、下腕部部品をロウアーカノンと呼ぶのだが夥しい細かなナイフと毒々しい『濡れ方』……毒を塗っている?
手首を守るガントレットにも同様のものがある、つまり接触すると自然に突き刺さる、気にせずに投げ飛ばすぜ。
「いてぇし、多分毒だし」
『絶対毒だし』
投げ飛ばしたそいつは器用に片腕で地面を弾いて着地する、重みで腕が沈んだのが雪をばら撒くかのように腕を雄々しく空に突き上げてクルクル、ぜーぜー、流石に重たかったと溜息を吐き出す俺にそのまま襲い掛かる、疲れは?ひぃ。
脇を守護するベサギューがまるで生き物のように振動、回転、まるで肉のようだ、鎧と肉が一つになっているのか?剣が確かな角度で命を奪いに来る。
「ひぃいいい、こいつ嫌いっ」
『大好きな弟作だよ』
「れい、殺すぅぅううううううううう」
『キョウ大好き♪』
胸部と背部を守るキュイラスが大きく脈打つ、単にブレストプレート、若しくはバックプレートとも呼ばれるそこが弓なりになる、つまりは前後に大きく震えながら玩具のように不可解な動きで攻撃を繰り出す、人間のソレでは無い。
「こいつ、全身揃ったアーマーだから高く売れそう」
『高く売れるねェ』
「眠らせるお礼に貰おう、グロリアとの再会のお土産」
『いいんじゃない?』
腰部を守る為のフォールドが高速半回転、横薙ぎの剣が俺の前髪を斬り落とす、少し前から目元に入ってウザかったので丁度良い、フォールドから吊り下げられる形で二枚一組の小板金のタセット、そこに乱暴に足蹴り、躱したついでのお土産じゃボケェ。
体勢を立て直そうとするそいつの背後に回り込む、胸部のブレストプレートと対になるソレ、バックプレートから垂れ下がる臀部を守る為のキュレット、攻撃を繰り出すための重心としてわかりやすい位置、少しは斬撃叩き込めば勢い無くなるかなあ?
そもそもファルシオンが通らん、物理的に中身をシェイク。
「死んで生きてええええええええええ」
『ダメだ、混乱しているよォ』
チェインメイルスカートが大きく振動する、スカートは女の子のスカートだけで十分だ、問答無用で餅つきのようにファルシオンを叩き込む、大腿部に位置するキュイッスが震える、一気に大きくなる『鉄の足裏』に死を意識する。
「こわっ、体術もおかしくね?!」
『餅つきしてるからだよ』
「お前はレイにヤキモチやいてろ、可愛いからっ」
『う、うん』
足に位置する鉄靴(ソールレット)が死を告げる、しかしサバトンとも呼ばれるソレをギリギリの角度で避ける、後は、ええと、膝に位置するポレイン……パウレイン、んで脛を守る為のグリーブ、よし。
確認終わり。
「全部やっぱ揃ってる!死んで生きてお金になれえええええええええ」
『ホント、グロリアみたいになって』
嬉しいぜ?
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