第445話・『天然人工物』

スッキリする、弟の女を殺して食べる、目的が単純化されて思考の靄が消える、キョウの溜息の意味がわからん、おとうと、おとうとってだぁれ。


ファルシオンが忘れないでと震える、人外を捕食する事を好む点は主と同じだ、洞窟の中を進みながら笑う、嗤う、哂う、わらわらわら、しかし足止めに雪を住処にばら撒くとはっ。


これでは外と変わらん、周囲を見回す、坑道では地下水がほぼ確実に湧き出る、故に様々な排水器具が用いられて来た、その残骸があちこちに転がっているのだがどうも時代が安定しない。


まあ、少し前までは金桶や釣瓶を用いた排水だが……その残骸もある、しかしその後のスポイトの原理を応用した寸法樋(すぽんとい)の残骸も……やはり安定しない、技術が進む度に発掘していた?


アルキメデス・ポンプを応用した水上輪(すいしょうりん)などの排水器具も……こいつは手入れと整備をすればまだまだ使えそうだ。


「ころーす、ころーす」


『キョウったら、あんな馬鹿にデレデレして、早く始末しないと』


「れいをいじめるきょうはきらーい」


『嘘でしょ?!』


「しんじーつ」


『あいつ嫌いっ』


これらの排水器具は故障した時が正念場だ、まあ、小まめに手入れしていたら壊れないように出来てはいるが百パーセントでは無い、坑道内での修理は困難である点からやはり旧来の釣瓶による排水が信頼されている。


捩子構造が道具として使われた最初の例として上げられるアルキメデス・ポンプ、このまま何処かの市に売り出したいぐらいだ、そもそも鉄ってだけで売れるしな、それを捩子構造に落とし込んだ技術も見事だ、高値だぜ。


ササと祟木の知識が自分の物のように浮かびあがる、道具は最新のものがあっても周囲の形状を妖精の感知で読み取れば『それだけ』のものとわかる、つまり道具は最新でも施設は最新では無い。


「こんな場所に住んでるのか、鉱害こわ」


『エルフライダーだから平気でしょ?それよりレイの事っ』


「れい、知らん」


『うあぁああ、混濁混在状態のキョウうざいよォ』


「俺は弟の女を壊して殺して開いて中身が綺麗か確認して閉じて弟に返すお仕事なのだ」


『どんな仕事なのォ、もぉ』


「もぉもぉ言ってると牛になるぜ」


『牛にならないもん、なるなら猫だもん』


「どうしてだぜ」


『可愛いもん』


「牛も可愛いだろ?!」


『牛は美味しい方だもん』


「え」


こいつ、時わけがわからないし無駄に言い分が可愛いな、まあ俺の実家とか辺境は省くとして近年では鉱害などの環境問題に対応する為に大国は力を入れている、数年前に人工的な廃水処理場を開発した国が有名になった。


ササ曰く煤煙脱硫施設等を設ける事が必要らしいがお前が技術提供してやれと吐き捨てる、しかし廃水処理場はマジで必要だからなぁ、鉱山では必須と言われ続けて数十年、やっと世の中に広がった感があるぜェ。


基本の三工程である、採掘・選鉱・製錬などで発生した排水はもはや汚水だ、しかも恐ろしい毒性を秘めている、理由としては重金属などが大量に含まれているからだ、勿論そのまま河川に放流することは不可能だ。


不可能だが昔はしてた……可能だった、可能じゃないけど知識が無いから可能だと思っていた、しかし近年では沈殿池などをちゃんと設置して石灰などの薬品で汚水を清めるのが通例だ、でも俺もササの知識が無いと知らないしなァ。


重金属や有害物質を除去して河川や他の場所に排水するのがやがて世界の一般常識になる。


「ササとか祟木みたいな天才からしたら一般人って何なんだろうな」


『猿じゃない?』


「牛のお前が言うな」


『猫だもんっ』


ちなみに坑道から湧出する廃水は自然由来だとかで先進国では鉱山が閉山した後も事業者が処理をし続ける事を定めている。


人工も天然も等しく処理される、おれも、しすたーもにんげんも。


「牛でも猫でも無く人間だろ?」


『ど、どうしたの、突然』


人間でいたい。

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