閑話270・ 『狐の子供の子供2』

「どうしたものか」


「何がだよ」


愛娘に愛情を伝えるべく密着しつつ呟く、この子が誰かに奪われる前に既成事実を……なぁに。


儂に似て人生の『諦め』を知っているのじゃ、すぐに、すぐにじゃ。


「結婚式じゃ」


「――――――」


「結婚式じゃ」


「誰の」


「儂とキョウ」


なるべく可愛らしく愛らしく囁き掛ける、逃げようとするキョウ、即座に絡めた腕と足に力を入れて固定する、意識的に『ゆるめ』の場所を作ってそこを起点に逃げ出そうとすると力を入れて固定する。


こうやって『ゆるめ』の場所を作れば意識的に集中する箇所が限られる、わかりやすい子、罠じゃ、罠。


「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ、嫌だぁあああああ」


「反抗期かの?」


「うるせぇ」


「儂は繁殖期じゃ」


「ご、ごめんなさい、勘弁してください」


「自然の摂理じゃ」


「……」


子と子を成したいと思うのは当然じゃろう、儂は儂の血を継いだ者しか愛せぬ。


キョウしかおらぬ。


「その前に祟木と決着をなぁ」


「……嫁の片目を抉る夫などおるまい」


「嫁を拘束してる狐が言えた事かよ」


それだけお前が自由奔放で他者を誑かす存在じゃから―――心配と嫉妬でおかしくなる。


腹の中に戻したくなる、戻したくなる。


戻るかァ?


「赤ちゃんは欲しいぜ」


「な、なんじゃと」


「お前と赤ちゃん、いいぜ」


「うぁああ、キョウ」


あ、愛の告白に体が小刻みに痙攣した。

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