閑話265・ 『五月のコーン2』
何も無い街、しかしキョウがいるだけで色づいて見える、それなのにキョウは儂から逃げようとする。
手を繋いで体をより密着させる、幸せじゃ。
「もっと母の近くに寄るのじゃ」
「いや、物理的に無理」
「もっと夫の近くに寄るのじゃ」
「い、いや、論理的に無理っ」
逃げようとするキョウ、まだ子供と言っても良い年齢なのに妙な色気がある、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白。
ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、見る者を魅了するような圧倒的に美しい髪。
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、全体的に線が細くて儚げな少女。
シスターである事は疑いようが無いがシスターの枠に収まるような個性でも無い。
儂の将来の嫁。
「親子であんまりイチャイチャするとバカにされるぜ、しかもみんな働いている」
「ええじゃろう、キョウ」
「良くねーわ」
「ははははっ」
「笑う所なくね?!」
こんなに可愛い娘が相手してくれるのだ、笑わずにいられるか?ああ、見れば見る程に可愛い、他所の子とは圧倒的に違うのじゃ。
流石は儂の子じゃ。
「デートで娘を口説くのは楽しいのじゃ」
「やだやだ、外様はその土地の人に遠慮すべきだぜ」
「ふふん、金を落とすのじゃから堂々としてれば良い」
「あ、その考え方グロリアっぽい」
「ど、どうして頬を赤らめるのじゃ?!」
「あー、うるせー、自分でもわかんねーよ」
「……あの小娘っ」
「子狐が吠えるんじゃねーぜ」
キョウの心の中には何時だってあのシスターがいる、不快で、憎らしく、気に食わない。
娘を女に奪われる恐怖。
「で、何処に連れてってくれるんだ……で、デートだろ」
「お、おぉ、おぉおおお」
「うるさいって」
キョウに餌を与えてやるのじゃ。
餌付けは大事じゃろ?
娘でも。
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