閑話252・『殺意を育てる』

右目を失った、グロリアが不思議そうに『再生』しないのですかと問い掛けたが聞き流した。


暫くはこの痛みと喪失感と視界の狭さに付き合って生きて見よう、そしてこれは何も自分を満足させるものでは無い。


片手も包帯でグルグル、顔面も包帯でグルグル、何だか棚に置かれた商品のような気持ちで日々を生きている、んふふ。


灰色狐の祟木への嫉妬を増幅させる素敵な装置としての意味合いも強く持つ、召喚して傷口を見せればすぐさま顔色が変わる。


経緯を伝えずに事実だけ伝える、そして泣きじゃくる、灰色狐に抱き締められながらその高い体温を感じる、ロリくせぇ、獣くせぇ。


殺意が膨れ上がる様を観察しながらくすんくすんと泣く、性的な雰囲気は無く、単調な愛撫が続く、頭を撫でられると安心する、子狐になる。


「あああああああああ、キョウ、儂のキョウ」


漆塗りを思わせる張りと艶のある褐色肌を震わせて母狐は尻尾を逆立てる、再生しようとすれば出来るのだけどそこまで頭が回っていない。


そんな事よりも最愛の娘を傷付けられたショックでまともな思考が出来ずに全身全霊を持って俺を癒そうとしている、狭まった視界では中々にその表情を捉えられない。


何処か遠くで『殺してやる』と聞こえたがそれもまた聞き流す、俺は幼子になってえーんえーんと情けなく泣いてれば良いのだ、あ、祟木にはキクタとキョウに護衛を命じている。


麒麟にも一応な、この三人相手では何も出来まい、その何も出来無くてより憎しみを深める灰色狐が俺は見たいのだ、だからその為に一つ一つ緻密な作業をこなしてゆく、んふふふ。


「いたい、なぐさめてね」


「ああ、儂に似てあんなに可愛かった顔がこうも無残に」


「むざん、かわいくないの?」


「あ」


「今の俺、可愛く無いの?」


「そ、そんなわけあるか」


「おめめ、ないし」


「それが理由になるわけが無かろう、儂の可愛い娘じゃもの」


「んふふふ、抉られちゃった、潰されちゃった」


「あいつ」


「ふふ」


「――――――――――――」


狐が殺意に染まるのが面白くてついつい誘導してしまう、獣の脳味噌は小さいからなぁ、でも灰色狐は頭が良いよな?


だから俺はその頭の良さを利用する、ナデナデしてぇ。


こーんこーん。


「あいつを、どうするの?」


「まだキョウには早い」


「なんで?」


「汚い言葉をキョウに聞いて欲しく無いのじゃ」


ふふ、そうか、ありがと。

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