閑話231・『君の為に我が身を磨く』

「ご褒美は何が良い?」


ある日、強制的に具現化されて吐き出される、呼吸もままならず床の上で鯉のように口をパクパクさせて蠢く。


ここまで強制的に吐き出されるのは初めてのような気がする、それだけ急かされているようにも思えるので意識して肉体を構成する。


瞳が完成すれば状況もわかる、ベッドに腰を下ろして細くて長い足を組んでいる我が主にして本体、後光が差しているように思える、地上に舞い降りた天使。


吐き出されて無様にゆっくりと肉の塊からヒトガタへと形を成す祟木と悠然と微笑んで全ての世界から切り離されたように輝くキョウ、そこはやはり人間と天使の関係。


神の子供であるキョウは自覚も無しに他者を狂わせて自分のモノにする、そしてそれを利用する事は無く当たり前のように忘れる、それでこそ支配者だと思う、祟木のご主人様。


捧げる力は無く、捧げれるのは地位と知識と助手だけ、全てを捧げ尽したところで他の一部のように……そう思っていたらこれだ、気紛れで、無邪気で、圧倒的な天使、故に傅く。


「どうした、キョウ」


「いや、だからご褒美だって」


「?貰う理由が無いと思うが」


「ポニテ、グロリアもキョウも喜んでくれたぜ、だからご褒美」


「……それだけの為に?」


「それの為にだ、『だけ』はいらねーぜ」


「あはははは、それは確かに……しかしご褒美か……何も考えていなかった」


「何時でも良いから言ってくれ」


クスクスクス、異性だろうが同性だろうが異種族だろうが容易く骨抜けにする天使の笑みを見詰めながらどうしたものかと考える、やり方は教えたのでキョウはキョウもポニーテールだ。


しかし自分だけ特別に何かして貰うのは些か……まあ、文句を言う輩はいないだろう、少しばかり麒麟が面倒だがキクタや『女性寄りのキョウ』に抑え込んで貰えば良いだけの話だ。


「しかし、そうだな……」


「うんうん」


「……祟木の為にお化粧をして欲しいな、他の誰かでは無く」


「うんうん、うん?そんな事で良いのか?」


「『そんな事で』はいらないぞ、キョウ」


「あ、えへへ、すまん……祟木がそれで良いなら良いけど……」


「それ『が』良いな」


「……じゃあ、今度は祟木の為にお化粧してあげるね」


「………威力が凄いな」


「ん?」


「何でも無い、こっちの話さ」


そうか、キョウが……祟木の為だけにお化粧を……御洒落を。


いかんいかん、口元が。


「ニヤニヤしてどうしたんだぜ?」


「何でも無いよ」


何でもあるさ。

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