閑話228・『娘に口説かれる』
この世界で最も恐れられている魔物は700年前の雷皇帝(らいこうてい)と呼ばれた魔王が創造した雷の属性を持つ魔物達だ、人類を絶滅寸前まで追いやった雷皇帝の魔物は気性が荒く獰猛で生命力に満ちている。
さらに属性で言えば最強に数えられる雷を扱うのだ、さらに竜種も多く創造しており個体数は少ないものの一匹一匹が強国の軍隊を圧倒する程だ、しかしその多くは北の大地に定住していて人間の世界に行く事は少ない。
地上最悪の魔王の元幹部、それは俺の娘でもある、矛盾?――――――雨の音がそれをかき消してくれる、砂嵐が全てをかき消してくれる、正しい事は正しい、そうなのだ、何もおかしな事では無い、なにもおかしなことは――。
おかしな事は無い。
「お化粧?」
「して見たぜ、祟木の神業よ」
「?可愛いな、お母さん、ポニーだ」
「おう」
「しかしお母さん、唇が異様に赤いな」
「口紅だぜ」
「…………」
「何だぜ」
「何でも無いよ」
何だかムスッとしている此処野花、何時もクールなこいつにしては珍しい、腰に両腕を回してモジモジしている、何だろう、娘に可愛いと言って貰えて嬉しいけど…何だか釈然としない。
「おいで」
服を掴んで引き寄せる、その幼い体にしては大きめのパルカ、ブカブカで持て余している感が半端無い、あまりに大きいソレのせいで下半身も隠れてしまっている、畳の材料にもなるイグサを編んだ畳表草履、人間の扱う物でも自分が良いと思えばすぐさまに自身に取り込む此処野花。
その服はトップスの内首の根元の部分に帽子となるフードが付随している、人間の世界の北の民族が好んで着る服だ、動物の毛皮で作るソレはパルカと呼ばれ他の地域では高値で買い取りをされているはずだ、腹にあるポケットに両手を突っ込んでいて実に自然体。
どうしたよ?撫でてやる、明るい紫色の瞳、葵色(あおいいろ)の瞳が優しく細められる。
「凄いなお母さん」
「何がだ、あったけぇ」
「そうか、それは良かった」
「いや、だから何がだ?」
「お母さんは凄いって話だ」
「だから何が凄いのよ?わけわかんねーぜ」
「お母さんは可愛いのに、もっと可愛くなれるんだな」
「う」
「凄い事だ」
天然かっ、抱き締めて唸る、こいつは母親を口説いて何がしたいんだろう、その言葉は好きな男の子が出来た時に使え。
ばーか。
「凄いなぁ」
「だ、黙れ」
黙らなかった。
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