閑話219・『まざこんこん』
「嫌よ、そもそもお化粧の仕方なんて知らないわ、人の文化でしょ」
「えー、もう、もーーーー」
「もーもー言ってると牛になるわよ、しっしっ」
部屋に広げた書物を読み耽る創造主にして母の一人であるツツミノクサカ、具現化してすぐに俺の体調をチェックして何やら書物を広げて唸っている。
研究対象でしか無いのか俺、あんたが製作したんだからちゃんと責任を持って思春期特有の悩みを聞いてくれよ?しかし相手にしてくれない、俺は可愛い娘だぞ。
「お前、良い加減にしろよ」
「エルフはちゃんと捕食しているの?」
「え」
「答えて」
「う、うん、食べてる、一週間に一度ぐらい」
「そう、普通の食べ物も平気?匂いは?」
「え、べ、別に食べれるよ、さっきおやつ食べた、甘い砂糖菓子」
「………」
無言で何かを書き込んでゆくツツミノクサカ、あまりに淡々とした態度に逆らう事も出来ずについつい答えてしまう、こいつの前では『子供』になってしまう自分に腹立つ。
また捌いてやろうかと口元を吊り上げる、しかし状況は変わらず、俺の身を案じるような質問が続き牙が徐々に抜かれる、こ、こいつは、研究対象として見ているだけなら良いのに。
やっぱり子供として扱っている。
「成長期だからね、それと、エルフの数が少ない」
「た、食べてるって」
「他の生き物の味ばかり覚えるとアレだからあのシスターにでも強請ってエルフを捕獲しなさい」
「ぐ、グロリアに頼み事なんて無理」
「じゃあ自力で捕まえて食べなさい、全く」
「うぅ」
「エルフの耳ばかり食べるんじゃ無いわよ」
「ぅぅ」
「全部」
「食ってるもん」
叫んで睨む、月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、ついつい見惚れる。
「あ、あによ」
「………」
月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、無性に撫でたくなる衝動を抑える。
肌の色も同様に白いのだが頬の部分に奇妙な刻印がある、それが何を意味するのか俺にはわからない、瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ……ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになる。
全てが儚い色合いで構成された少女、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、そして詰襟で横に深いスリットが入った独特の服装をしている、東方服のように思えるが少し違うようにも見える、旗袍、チャイナドレスとも呼ばれる東方の民族のものだ。
お洒落、お洒落だよな?
「説教する前にお化粧教えてくれ!」
「嫌よ」
「何でだよ」
「まだまだ『お母さん』の手元にいなさい」
柔らかく微笑むその姿に苛立って汚らしく舌打ちした。
チョップされた。
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