第442話・『ままままままままままままママ』

万年雪は気温が上昇する時間帯に溶けてその夜にまたかたまる、それを何度も繰り返して雪はやがて氷になる、つまり万年雪は氷河となる。


気の長い話だと心の中で切り捨てて土岐国栖を背負いなおす、このまま夜が訪れたらまずいな、また錬金術の力で穴でも……根本的な解決になっていない。


しかし太陽は容赦無く俺達を照らしている、寒くて暑い………矛盾するそれを実感する、地面からはひんやりとした冷気、頭上からは太陽の熱気、体がおかしくなりそうだ。


谷間や凹地を雪が埋めて出来た空間はどうしようも無い程に過酷でどうしようも無い程にそこに立つ者を責め立てる、しかしさっき微かに『視線』を感じた、やはり術者はいる。


消えそうなその感覚を妖精の力でしっかり補佐して居場所を突き止める、距離はある、少しビビらせてやろうか?魔王軍の元幹部の細胞を活性化させて走り出す、逃げられる前に距離を詰める。


「お、おろろろろろろ」


「……振り向かないぜ」


一瞬背後を振り向くと虹色の綺麗なモノが飛んで行くのが見えた、乗り物酔い?俺酔い?うん、しかし構っている暇は無い、背中にポカポカ何かが当たる、パンチされてる?はいはい、ムシムシ。


久しぶりの獲物だ、エルフの気配は無いが俺をからかった報いは受けて貰う、銀色の景色が流れる様は見ていて退屈だ、妖精の感知を広げるが生き物の気配は無い、やはり人工的な空間?


速度を上げているので踏み締める雪の感触は一瞬だ、跳ねるようにして速度をさらに上げる、走るつーより飛んでいる?敵の気配があるって事はここで仕留めてここで終わらせるつもりだろ?


だったら話は早い、ぶっ殺す♪いや、お腹に入れる。


「ぴょんぴょん跳ねるぜー」


「おろ、けぷ……少しなれたのだ」


「それは良い事だぜ」


「しかしキョウはウサギなのか?ピョンピョン跳ねて」


「おーそーだぜ、母親はウサギだぜ」


「初耳なのだ!?うさ耳なのか?!」


「もう片方は狐だ」


「それも初耳なのだ?!キツネ耳なのか?!」


「さらに魔物もいる」


「………嘘なのだ」


「嘘じゃねェもん、ホントだもん」


「………」


「神様もいる」


「やっぱり嘘なのだ!?」


「ナムナム」


嘘じゃねぇぜ、みんな俺の母親なのに心外だぜ。


迫る気配に苦笑する、そうだ、こいつも母親にしちまおうかな。


「母親が増えるぜ」


「やっぱり嘘なのだ」


本当にしてやるぜ?

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