第441話・『君を望むけど無視するから君じゃないのを消す』

捕らえた空間の中で戸惑う人外を見詰めながら依頼の内容を確認する、捕獲せよ、なるべく傷付けず。


しかも体力を奪えと指示は細かい、空間を支配するのは得意だが細かい指示はどうも好かない、そもそもこの依頼自体が気に食わない。


それでも受けたのは『繋がり』を無くすには惜しい相手だからだ、勇魔の依頼はシビアだが見返りも大きい、人間の世界ではあまり派手に活動出来無いらしい。


理由としては簡単だ、どれだけの敵が討伐に来てもあいつの使途が容易くそれを打ち砕く、しかしそれをすればする程に目立つ、それが足枷となって思うように動けない。


特に今回のような件は尚更だ、捕まえて経過を確認する、あの生き物が現在どのような状態にあるのか知りたいのだ、自分の計画が狂っている事実を知りながら愛しい彼女の経過を知りたい。


「愛が重い男は嫌われるとわかっていない、くっくっくっ、愚か者が」


幼く甘い声は辛辣な言葉を伴って苛立ちを吐き出す、どうして彼がそこまであの化け物に熱心なのか理解に苦しむ、そもそも理由を教えてくれない、遠視しただけでも圧倒的な化け物だとわかる。


それをどうしても手に入れたい?それなら使徒の方が安全かつ安定している、関係性を知らないのでこれ以上は―――――自分は駒だ、全てを打ち明けられているわけでも無い、深い洞窟の底で溜息を吐き出す。


水晶鉱山の跡地を根城にしながらここで長い間過ごしている、主に人間の世界での勇魔の動きをサポートする為だ、遠い昔に出会った、そして殺されなかった、理由はわからない、教えてもくれない、だけどソレで良い。


緑水晶(みどりすいしょう)で構築された自分だけの煌びやかな根城……細かい角閃石等が水晶中に含まれる事で全体が緑色を呈色して見える水晶は何時見ても飽きない、そこに映り込む自分の姿、幼く、そう、永遠に幼い……勇魔と同じ。


「人外は幼ければ幼い程に高位の者、か、あいつなりの言い分だがなる程、馬鹿らしいと一笑するには些か」


空五倍子色(うつぶしいろ)の髪は左右で束ねてそのまま肩に流している、勇魔曰く元気のない兎のようだと……女性に対してかなり失礼な奴だ、言い返したら『ああ、一人の女性にしか好意を向けれないからね』と言われた、誰だ?


五倍子(ごばいし)で染めた灰色がかった淡く薄い茶を由来とするこの色は自分では地味だと思いつつもかなりお気に入りだ、五倍子は白膠木(ぬるで)の木に発生する虫の瘤の事だ、中が空洞になっている事から空五倍子と名付けられた。


これを細かい粉に加工して染めた事からこの色名になったと言われている、中々に珍しい色合いの髪だと思う、しかし奇抜である事だけで男性は魅力を感じない、と、特にあいつは……見た目も子供だし、中身も子供なのか?


「どうしたらこっちを意識してくれるのか、くっくっ」


困った困ったと笑う、しかしそれはあいつの感情次第であって自分の意識ではどうしようも無い事だ、ゆっくりと細められる瞳は何処か悪意を秘めていて自分らしいと思う、その癖色合いとしては単調で単純だ。


生成色(きなりいろ)のソレは細く細く細められている、何も色彩を与えられていない木綿のような少しだけ赤みがかった白色のソレは見る者を安心させるような色彩なのに奥に潜んだ人間の悪意のせいで台無しだ。


自分は悪意の塊なのだから仕方無い。


「あいつの大切な生き物か」


「あいつの欲する生き物か」


「あいつのあいつの、そうか」


「くっくっくっ」


「初めてあいつの人間らしい一面を見たよ」


「だからそう」


「そう」


壊してみるか。


そうしてみるか。


そうしたら、みてくれるかな。


自分を。

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