閑話216・『キクタ的な見解』
「あ、アタシにそれを頼むのね……教えてくれたのはキョウなんだけどな」
「ん?教えた事はねぇぜ」
「や、ややこしいわね」
湖畔の街に呼び出したキクタは頭を抱えるようにして蹲る、純粋な可愛さで言えば俺の一部でもナンバーワン、頼み込む事に疑問はねぇぜ。
なのにキクタは下唇を強く噛み締めてわけのわからない事を言っている、俺がお化粧を教えた?そんな記憶は無い、そもそも俺にそんな知識があれば今回のような事にはならない。
何時の事を言ってる?
「教えてくれるのか?」
「……う、うーん、ちょっと待ってね、考えるわ」
「考える?」
「……駄目ね、それが切っ掛けで思い出してもキョウが傷付くだけ」
僅かな静止の後にポツリと呟くキクタ、桃色の潤いを帯びた唇から紡がれたのは予想して無かった言葉だ、俺が傷付く?いや、お化粧を教えてくれ無い方が傷付くんだけどさ。
そもそも俺が傷付くとか舐めるのもいい加減にして欲しい、そこまで弱くねーぜ、男の子だぜ?あ、ん、いや、女の子だよな、お化粧したいんだもん、そうも頭の調子がおかしいぜ。
何時もおかしい。
「俺を子供扱いするんじゃねぇぜ、少々の事で傷付くか」
「皆にお化粧教えて貰え無くて落ち込んでいたでしょう?」
「そ、それはまた別の話だろう」
「アタシも教え無いしね」
「キクタ………感じ悪い」
「甘やかすだけが優しさじゃないからね」
「あ、甘やかしても良いんだぜ」
「時と場合によるわ」
座り込んだ俺の頬に細い指が当たる、値踏みされているようにツーと指が躍る、グロリアや俺の肌が白磁の陶器を思わせる代物だとしたらこちらは自然物である初雪のような儚さを思わせる肌だ。
綺麗な腕だなとついつい見詰めてしまう。
「あら、柔らかい」
「そうか?お化粧教えてくれない?」
「そうね、これだけ綺麗なモノに何かを塗りたくるのは趣味では無いわね」
「き、キクタぁ」
「弁えなさいって事よ」
そう言ってキクタは薄く微笑んだ。
意味がわからずに俺は項垂れるだけだった。
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