閑話215・『妖精アドバイス』

「主よォ、そもそも妖精に化粧をする文化があると思うか?」


呆れたように呟かれてなる程と思う、ケバい妖精の話なんて聞いた事が無い。


背もたれに体重を預けながら目の前にふよふよと浮いているユルラゥに向き直る、全く持ってその通りだ。


しかし俺の一部はどいつもこいつも適当な理由をつけて俺にお化粧を教えてくれないのだ、見た目だけならかなりお洒落な妖精に頼み込むのもおかしな話では無い。


「でもお前お洒落じゃん」


「お洒落とお化粧は違うんだぜ?意外にそこを勘違いしてる奴が多いんよなァ、主もその類か」


「う、ぐ」


「お化粧は自分を底上げする事、お洒落は自分を着飾る事、オレは前者は好かないぜ」


羽が揺れる度に空気の振動が俺の睫毛を震わせる、何だか説教されている気分になる、ユルラゥは人殺し大好きな妖精だが意外に博識で物事を単純化してバカな俺に教えてくれる。


だからついつい甘えてしまう、こんなに小さいのにまるでお姉さんのようだ、人殺しの癖に…………ああ、でもそれは俺も一緒か、人食いだもんな、最初に出会った頃とすっかり変わってしまった。


俺も虫けらになった。


「そもそもモテたいって理由が不純だぜ」


「言われた、それもう言われた」


「主はモテるだろ、お化粧なんかしなくても、可愛いからな」


「ふぇ」


「そーゆー反応も可愛いと思うぜ?」


「……や、やめて」


「ゆでダコ」


こいつはこう見えて無自覚で人を口説く癖がある、人間と違って言葉に裏表が無いって言えば良いのかな?あまりに突然の告白に俺は対処できずに顔を赤くする。


頬を小さな指で突かれる。


「やっぱり必要ねーぜ、にしし、オレの主は今日も絶賛可愛い」


「よ、妖精にモテても仕方無いぜ」


「おっ、生意気な事を言いやがる」


瞿麦(なでしこ)を彷彿とさせるピンク色の髪が揺れる、そのピンク色の長髪はしっかりとしたウェーブで腋にかかる程度で切り揃えられている、お洒落だぜ、美人さんだぜ。


なる程、お洒落はしてるけどお化粧はしていない、た、確かにだぜ。


「……生意気で可愛く無いだろ?だからお化粧教えて貰いたかった」


「いいや、生意気で可愛いぜ」


「うぐ」


「オレの主だからなァ、そんぐらい生意気じゃないと張り合いがねぇぜ」


その後ずっと何だかんだで口説かれた。


ちくしょう。

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