閑話214・『お化粧を教えてくれる赤ちゃん』
「そうです、不細工だからお化粧の一つでも覚えなさい」
キョロはグロリアが絶対に言わない台詞で俺の悩みを打ち砕く、粉々に、え、不細工?問題が先送りされて新たな問題が発生する。
湖畔の街でキョロは悪びれもせずにそう答える……俺はまるで岩のように微動だにせずに停止する、遠くでカラスの鳴き声がする、キョウも一部も絶対に言わない台詞。
ぶさ、え、なに、ぶさ。
「え」
「…………ぶさいく」
「え」
「ぶさいく♪」
ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながら彼女はもう片方の手で腰の辺りを弄る、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、だけどニヤニヤと吊りあがった唇の端が意地の悪さを含んでいる。
停止した俺を見詰めながら何度もその言葉を囁く、理解が追い付く、無性に悲しくなって小刻みに震える、いや、うん、うん、まあ、あ、そーゆー意見もあるでしょうね、否定はしないぜ、みんなそれぞれだぜ、でも正面切って言う必要ある。
「……うぅ」
「どうしました?キョウさん、お化粧教えますよ」
「………」
「グロリアの血から誕生した私です、彼女の知識もありますし」
「………うっさい」
「ふふ」
俺のようでいて俺で無くキョウのようでいてキョウでは無い………右手の穴が生んだ少女、あの空洞がこの少女を生み出した、グロリアの血と憧れが俺の中で混ざり合ってキョウと同じような俺を生み出した、グロリアに捨てられたく無いから俺を捨て無いグロリアを生み出した。
捨てれないグロリアを……それなのに俺を苛める、昔のグロリアのように……俺の事を好きじゃ無かった頃のグロリア。
「キョウさぁん、どぉしましたぁ」
「うるさい、手を繋ぐな、はなせ」
石畳の上に亀裂が走る、活性化した筋肉と増大する魔力でイメージであるはずの湖畔の街に異常が起きる、繋がれた手は軋みを上げるがキョロは涼しげな表情をしている、絡めた指が何かを比喩しているようで気持ちが悪い。
こいつに頼まなければ良かった。
「不細工じゃないもん」
「じゃあお化粧しなくても良いんじゃないですか」
「そうじゃないもん」
「へえ」
「そーゆーことではないもん」
「………甘やかされて、まあ」
「甘やかされて無いもん」
「……はぁ、お化粧、教えて上げましょう」
何故か教えれくれた。
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