閑話213・『兎と狐を選べと言われた』

お化粧をしたいだけなのに蔑まれたり罵られたりと中々結果が出せない。


留守中のグロリアが帰って来た時に驚いて欲しい、お化粧して可愛くなったらもっと愛してくれるだろ?


目の前で揺れるうさ耳を見詰めながら事情を説明する……今までで一番対応が柔らかい、い、いけるか、お化粧っ。


「そうデスか、そうデスか」


「わかってくれるか」


「……しかし理由が駄目デス、異性にモテようとは―――不純なのなのデス」


「同性にもモテたい」


「余計不純なのデスよ」


「え」


異性も同性も愛するって素晴らしい事じゃねぇーの?予想していない言葉に軽く狼狽える、そんな俺の様子を見てお母さん――レクルタンは小さな唇から小さな溜息を吐き出す。


理由から突っ込まれるとは、いや、グロリアに褒めて欲しいのもちゃんとした理由ですよ?だけどそれに並ぶぐらい異性と同性と………性の乱れ?俺は最初からそーゆー生き物だ。


家族ともしちゃうもん、それなのに今更?


「ぇぇぇ、いいじゃん、別にいいじゃん」


「変な病気を貰ったらどうするのデスか」


「灰色狐から?」


「狐は……狐は駄目デスね、アウトです」


「狐だからなぁ」


「兎はセーフです」


独裁者じゃね?指を立てて説明するレクルタン、どっちも獣だから駄目だろうと心の中で呟く…………しかし俺に異常に甘いレクルタンがここまで粘るのは意外だ、えっと、どうしようか。


取り敢えず説教するようにクルクル回られるのがウザいので頭を掴む、小さな頭なので鷲掴みが可能、僅かな黄色が溶け込んだ白色の髪、卯の花色(うのはないろ)のソレは清廉で清潔で清純だ、人々に愛される色。


指の隙間から毛並みの良いソレが揺れる様を見詰める。


「……レクルタンの可愛い赤ちゃん」


「なんだぜ」


「……母親を無造作に鷲掴みに出来る程に成長して嬉しいのデス」


「喜ぶポイントがおかしいぜ」


銀朱(ぎんしゅ)の瞳が蕩けるように細められる、朱丹に水銀と硫黄を丁寧に混ぜ合わせてソレを焼いて製造すればこの瞳の色合いになる、実に美しい色彩だ。


しかし頭を鷲掴みにされているせいでうさ耳が折れて涙目になっている、ふるふるふる。


「必殺うさ耳潰し」


「ぅううぅうううう、痛いデス」


「俺を産む時とどっちが痛い?」


「産む時デス」


そりゃそうか、結局お化粧は駄目と言われた。

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