閑話210・『お化粧よりも子作り』

正座をしなさいと言われたので首を傾げながら言われた通りにする、おかしい、パターンに入った。


説教をされるのは好きでは無い、思春期なのか少し反抗的になる自分に苦笑する、母親に対して反抗できるのは子供の特権だ。


「お化粧はまだ早いのじゃ」


「………理由も言わずに早い遅いで判断されるのはなァ」


「キョウがこれ以上モテたらどうする、儂の可愛いキョウに孫なんて出来たらどうする」


「祝福してくれよ」


「するわけ無いじゃろうが」


モフモフの尻尾が横切るのを見詰めながら溜息を吐き出す、薄暗い空に漂う雲のような色合いの髪が揺れる、俺は鼠のようだと心の中で呟きながら目の前の『母親』に向き合う。


正座をしたままの俺と腰に手を当ててクルクルと俺の周りを回る母親、何時もなら適当に受け流せるのに今日は本当に怒っているようだ、どいつもこいつも怒り過ぎじゃね?


「ナチュラルに飽きたぜ」


「ナチュラルが一番じゃ」


「それはお前や俺の一部がみんなロリだからだぜ、ロリには思春期特有のこの乙女の悩みはわからないぜ」


「あー、聞こえん、全く聞こえん」


「頭の天辺に立派な三角耳があるだろうが!」


「飾りじゃ」


「…………」


「嘘じゃ」


「お前自分でアイデンティティを否定するのは止めろよ」


「こら」


むぎゅ、俺と同じ目線で両頬をむぎゅとつまむ灰色狐、襟首より短い位置にきっちりと切り揃えられたサイドの髪が鼻の先をくすぐる、前髪も同じようにきっちりと切り揃えられていて几帳面さを強調しているようで気に食わない。


肌の色はやや褐色に寄ったものだ、こいつの肌にはシミ一つない、若さからか漆器のような艶やかさがある……そりゃお前にはお化粧は必要ねぇだろう、でもアサシンなんだから変装とかするだろ?


教えてよ。


「教えてくれないとやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」


「良い歳の娘が見っとも無く床を転げ回っていて……可愛いのじゃあ」


「うっ」


「もっと暴れておくれ」


ネズミを狙うかのように縦に開いた瞳孔が………身嗜みを整えてまた正座に戻る。


こわっ、引くわぁ。


「灰色狐、あまり俺を邪険にすると孫をつくるぞ」


「儂と?」


「―――――その耳やっぱり飾りだわ」

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