閑話208・『お化粧よりもお勉強』
何だかナチュラル過ぎる自分に疑問が生じた、難しい言い方を止めよう、お化粧を覚えようと思った。
一部達のブーイングを聞き流しながら具現化した半身に向き直る、寂れた宿の一室でも彼女は美しい、流石は俺の一部。
「いや、必要無いと思いますわ」
絹の法衣を纏った煌びやかな格好をした少女が呆れたように呟く、宝剣に王笏、王杖、指輪、細かい刺繍の入った手袋………様々な情報が視覚から一気に流れ込んで来る、絵物語の王女のようだと心の中で思う。
その煌びやかな恰好からは想像し難い冷静な一言についつい口答えしてしまう。
「いや、必要だろ、もっと可愛くなりたい」
「いいえ、必要ありませんわ、ママ……そんな事よりも私(わたくし)と夫婦になる約束は―――」
「恋人だろ、近親相姦は駄目だぜ」
「お化粧はもっと駄目ですわ、ママにはまだ早いですわ」
「俺もう18歳なんだけどっ!?そしてお前の中の色んな基準トチ狂ってるな!」
「褒めて頂いて嬉しいですわ」
「………………」
墓の氷はお化粧道具を俺の見えない位置に移動しながらクスクスと上品に愛らしく笑う、服装と相まって何処ぞの王族のようだ…………ゆるやかで幅広な広袖のチュニック、十字に切り取った布地の中央に頭を通す為の穴を開けてさらにそれを二つ折りにして脇と袖下を丁寧に縫ったものだ、肩から裾に向かって二本の金色の筋飾りが入っている。
お化粧つーかお洒落ならこいつが一番のような気がする、俺には少し敷居が高い様な気がするが何とかなるだろう、そう思って頼み込んだのにコレだ、全く教えてくれない、ええい、ママが子供にお化粧を習う事がどれだけ恥ずかしくて勇気がいる事がわかってねぇぜ。
親不孝者ォ。
「そもそもですわ、そもそもお化粧をする必要が無い方にソレを教えても必要が無いでしょうに」
「お化粧したらさらに可愛くなれるもん、可愛い青年や美少女とももっと遊べるもん」
「それを聞かされて教えるわけが無いでしょうに」
「ぁぁぁぁ」
「呪怨を垂れ流しても無駄ですわ」
「ぉぉぉぉぉ」
「怨嗟を垂れ流しても不快なだけですわ」
「ケチっ!」
「ママは自分のお顔を鏡でちゃんと見た方がよろしいかと」
「不細工って事かっ!?」
嫌味に聞こえたのでついつい絶叫してしまうと呆然とした表情で俺を見詰める墓の氷、呆けた表情が美少女っぷりを加速させている。
そんなお前のママなんだから俺は可愛いはずだぜ!
「どうしましょう、可愛くて頭が緩いとか将来が心配で仕方ありませんわ」
「え、可愛くて頭緩いって誰の事?」
「――――――お化粧よりもお勉強をしましょう」
「えぇぇ」
意味がわからないぜ。
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