第440話・『哺乳類ライダー』

仕組みがわかったと油断した、その仕組み自体が罠だと理解していればこんな事にならなかった。


溜息を吐き出して空を見上げる、先程までの低山では無い、そもそも低山つーのが罠だったんだな、グルグル回転させるのもさァ。


下り終えると同時に全く別の山へと『景色』が移動した、転移魔法では無くスイッチが切り替わるように自然に変化した……流石にあの山を何周もして下るのは疲れた。


あの仕組みは俺達の体力を奪う為のもので解決策では無い、万年雪が形成する雪渓の中で佇みながら深呼吸する、もう形振り構ってられないので空を飛んだけど強制的にここに戻されるし。


息苦しい、あの低山で体力削ってこの展開は流石にキツイ、どのような能力なのかもさっぱりだし何よりジワジワいたぶるような展開に舌打ちをする、完全に遊ばれているぜェ。


高山特有の息苦しさと現状を把握出来無い状況に苛立つ、周囲に生き物の気配は無い、そもそも本当に世界にある地理なのか疑わしい、術者を見付け出して始末し無い事には……。


「嫌な事が続くぜ」


「さ、寒いのだ」


「おいで、俺を懐炉にしな」


「う、うん」


爬虫類特有のひんやり触感を楽しみつつ抱える、軽いぜ、あー、高山と高山の間に存在する雪渓の中で現実逃避をする、流石に無限体力の俺でも精神的にかなりきついぜェ。


周囲をゆっくりと見回す、主に標高の高い山岳地帯で確認される万年雪、妖精の力でこの雪がその手のモノだと理解する……読み取る能力便利だけど絶望感が大きくなったぜ、ここ何処ォ。


「この雪に沈んで死にたくはねぇな」


万年雪は一見溶けること無く存在しているように見えるのだが気温が一気に上昇する夏には積雪表面付近は当然として地表付近にもかなりの融解が生じる、そうする事で積雪部分は数年単位の短いサイクルで新陳代謝が行われるのだ。


それによって巨大化したり下方へ移動する現象は稀と言っても良い。


「万年雪なんて爬虫類にとっては地獄なのだ、い、いらないのだ」


「攻撃的だな」


「た、体温が下がるのを感じるのだ、ガタガタ」


「俺の体温を奪って良いぜ、少し歩いて状況を把握しよう、また体力削る系のトラップかな」


「体力では無く体温を削るつもりなのだ」


「……いや、俺の体温を削ってるのはお前だけどさ」


「……え」


「うん」


冗談のつもりだったが項垂れてショックを受けている、うん、放置だぜ?万年雪は岩石などと比較したら色が白いのでアルベド……太陽放射の反射率が極端に高い、それ故に周囲の気温を下げる効果もある。


つまり現状としては最悪でしか無い、寒い、歩き付かれた、しかもどれだけ待っても雪は雪のまま、生き物の気配も無く食料になりそうなものも極端に少ない、今度はどうやって抜け出せば良い?


「うぅ、体力が削られるぜ」


「……」


「うぅ、体温も下がるぜ」


「………哺乳類に生まれた我が身を呪うのだ!」


「え」


エルフライダーって哺乳類?

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