第438話・『グロリアに何も感じない』

横に回転しながら下ると『ちゃんと』下ることに気付く、しかもある一定の角度で下げていかないと元の場所に戻される。


魔法では無い、魔力を感じない、一番に思い付くのは天命職、もしくは俺の知らない人外、麒麟を始め魔力を行使せずとも超常の力を使う者を俺は知っている。


取り敢えず脱出は出来そうだけどなァ、けど通常の何倍も歩かないといけないっ、ズルをしたらすぐに戻される、根気がいる、うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ。


もし仕掛けた『意思』があるのならぶっ殺そう。


「どうしたのだキョウ、歯軋りして」


「いや、こんなわけわかんない状況で良く呑気にしていられるな」


「そうか?洞窟の外の世界はあまり知らないのだ、こーゆー事も普通では無いのか?」


「普通であってたまるか」


低い山を何度も何度もグルグル回ってアホみたいだが現状を打破する手立てがこれしかないので仕方無い……雪を踏む感触も最初は楽しかったけどそろそろ飽きて来た。


何よりもう少しでグロリアに出会えるのにこんな間抜けな状況に足止めされている事に腹立つ、くそっっ、グロリアグロリアグロリア、俺の女ぁ、くっあ、あたまいてぇ。


雪に足を取られたわけでは無い、自分から蹲るようにして倒れる。


「キョウ!」


「ぐろりあとはだかさねたい」


「……ええい、バカな事を言ってないで歩くのだー」


「くすん」


お尻を叩かれて立ち上がる、うぅ、他の一部には出来無い行動、しかし今の俺には丁度良い、グロリアの事を思い浮かべる、胸は小さい、後は全てパーフェクト。


もみもみ、自分の胸の方が大きくなってしまった、悲しい事に…………村を出る時はこんな事になるとは思わなかった、思えば遠くに来たものだと空を見上げる。


「………俺の胸をグロリアに移植したい」


「キョウはバカだなぁ」


他の一部なら口が裂けても言え無い様な事を平然と口にするのが何故か心地よい、何だかグロリアと一緒にいるみたいで……少し聞いて見るか。


「お前、キョウや他の一部のようにグロリアに嫉妬して変なことするなよ」


「?あのシスターに」


「俺の一番大切な人だ」


「んー、しないのだ、興味無いのだ」


「え」


意外な言葉に少し驚く、あれ、俺の一部の多くはグロリアに対して良い感情を持っていない……よな、クロリアを思い浮かべて口元を押さえる。


それなのにどうして、いや、俺のことが好きだろ?


え、勘違い?


「え、え?」


「興味があるのはキョウだけで大好きなのはキョウだけでキョウの好きな『モノ』とかどうでもいいのだ」


真っ直ぐな瞳が痛々しい、そんな考え方って―――こいつ。


こわいな。

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