第437話・『頭蓋骨エルフはほぼ干しホタテ』

しかし低山のはずなのにどれだけ歩いても抜ける気配が無い、周囲を探っても生き物の気配がまだらに存在しているだけ――ん?


エルフの頭部は既にエルフの頭蓋骨へと変化している、こびり付いた肉片を歯で削ぎ落として食べていたら綺麗な頭蓋骨になった、誰かに見せて自慢したい。


土岐国栖と手を繋いで暫く歩くが景色は雪に染められていて同じ所を歩いているようにしか思えない、遭難したのだから指針となる方角も無い、下って下って行くだけ。


それなのに平地に出ないのは何故だ?何かしら超常的な力が働いている?魔力の気配は特に感じない、違和感のある生物の気配も無い、足を止めて顎に手を当てる、ふむ。


「どうしたのだキョウ」


「がじりがじり」


「もう食べる所は無いから捨てたらどうなのだ?」


「アホか、骨も砕いて食う、それが俺の骨となる」


「おお、真理なのだァ」


「少し黙ってろ、化かされてるかもだぜ」


「?」


グロリアがいればすぐに対処してくれるのだが俺もこいつも直進系だからな、搦め手の技に弱いつーか何つーか……キョウとかササは逆にそっちの方に強いよな、観察力あるし、対処もすぐに浮かぶし。


しかし折角の二人旅だ、相談せずに自分でどうにかしよう、思えばこの俺が低山で遭難するのがおかしい、いや、割と自信あるぜ?周囲を見回して景色を確認する、木の枝が折れて積もった雪の上に落ちる。


あれだけの雪、それなのに近くにエルフがいた、一匹で?このような山で暮らすなら集落があるだろうし、冒険者なら基本的にエルフ一匹で旅をしないだろう、亜人は目立ちすぎる、まあ、姉であり知り合いのダークエルフは例外。


違和感ではあるがそれは違和感では無いと言ってしまえば違和感では無い、確率の話だ、低い確率でも確率が『想像』出来る時点でこの世界に存在している、いきなり次元の割れ目から異世界の住民が転がり込んで来る事だってあるのだ。


『想像』出来る時点でそれは確立として存在している、だけど流石に現状を受け入れるのはなァ。


「自分で自分の考えを否定するぜ」


「悲しい事なのだよ、それは」


「うるせぇ」


「ぷぇえええええ」


もちもちの頬肉を掴んで引っ張ると涙目になって黙る、しかし無限の体力のある俺の前に少々のトラップは無意味、取り敢えず周囲を散歩して違和感の原因を突き止めるとするか、そこで気付く。


下っても下っても平地に到着しない?視覚ではどうなっている?頂上の方向を目指して方向転換、低山なので僅かばかりの時間で到着、さらに木の上にのぼって高さを得る、どれどれ、うん、下の景色は見える、曖昧では無い。


低山の間を縫うようにして走る山道を確認する、登りに矛盾はない、下りに矛盾がある。


「次は山を一回転するか、上と下を確認したなら横だな」


「おうなのだー」


俺の行動に何も言わずに付き合ってくれる土岐国栖、もし俺を惑わしている者がいるのなら壊さないとな。


何時だって惑わして良いのはエルフライダーで、その権利は俺だけのモノだ。


「しかし今の感触最高だったぜ、おら」


「ばばばばばばばばば」


両頬を引っ張ったらより笑えた。

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