第436話・『えるふりんご』
目覚めは突然だった、エルフライダーの生態を自分で把握していない、寒さに特別弱いとかそんなはずは無い。
抱き締めていた感触が無くなっている事に狼狽える、あのバカ、何処に消えた、巣穴から外に出ると一面の雪景色。
小さな足跡が何処までも伸びている。溜息、確かに気温はかなり温かいが出歩いても大丈夫なのか?朝特有の軽やかな風を感じて伸びをする。
「キョウ」
「マジか」
遠くから弾丸のように駆け寄って来る、どんだけ俺の事が好きなんだと不安になる、こいつの感情は『特別な一部』なので俺と共有していない。
だから真っ直ぐな言葉や行動が俺には眩しく見えて逃げだしたくなる時がある、村を出てすぐの俺を相手してたグロリアも同じ気持ちかな?
「ほら、餌なのだ」
「へぇ」
エルフだ、既に死体だ、既に頭部だけだ、ああ、この距離なら仕方無いか……雪もあるし、一番おいしい所だけ朝食として運んで来たのか。
個人なのか集落なのかは問わずに頭部に噛み付く、少しかたい、ああ、寒さで……餌やり係の仕事を自分の体調を気にせずにするとは……見所がある。
前歯で皮膚を削るようにして食事を始める、ニコニコしながらそれを見上げる土岐国栖、母鳥か、何だか生意気だ、頭を片手でグリグリしてやる、グリグリ。
「あはは、はぐれエルフなのだ」
「そうか、うまい」
「えっへん」
「………お前は何か食べ無いのか?」
「大丈夫なのだ、土岐国栖は保存食を頂いたのだ」
「俺だけ新鮮なエルフ肉で悪いなァ」
「いや、土岐国栖は保存食の方が好みなのだ」
「……え」
「……え」
二人とも硬直する、何だか聞いてはいけないようなことを聞いたような、塩漬けの肉や野菜の方が新鮮なエルフの肉より好き?思考が追い付かない、光を失った瞳を舌先で抉って捕食しながら思う。
何言ってんだコイツ。
「お前さァ」
「何なのだ、その物がわからない奴を小馬鹿にする言い方は」
「……保存食は保存出来るけど鮮度が悪い……エルフは捕まえるの怠いけど物凄くうまい」
「捕まえるのは土岐国栖なのだ」
「あ、ありがとう」
素直についつい謝ってしまう、しかし俺の言葉の意図は伝わってい無いようだ……そもそもの味覚が違うとか?
俺の癖に、俺と違う好み。
こいつ。
「エルフ、料理したら食えるか?」
「うえぇ、そっちの方が嫌なのだァ」
どうしようもねぇ。
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