第434話・『殺さないで、お役に立ちます』

覚醒は突然で覚醒は必然で息苦し『殺さないで、お役に立ちます』さは後から来た。


土岐国栖の紅葉のような掌が俺の首を絞めてると気付くまでに時間を必要とする。


ひんやり、真っ暗闇の空から何かが落ちて来る、それを頬に感じながらなる程と思う。


雪だ、雪が首絞めを祝福するように夜空から降り注いでいる……暫しの停止、咳き込み、僅かな酸素が抜ける。


蹴り倒す。


「うわぁああああ」


「けほっ、けほっ、ふ、ふざけんじゃねぇぜ」


「あ、起きたのだ」


「起きるわっ、起きなかったら永眠だわっ」


「き、キョウ、寒いのだ」


「あん?」


ああ、それで俺を起こしたのか?思えば竜種の大半も寒さには強く無い、こいつに出来る事といえば焚き火で体を温める事ぐらいでそれ以上の事は出来無い。


し、死なないよな?こいつがどれだけ人間でどれだけ竜種なのかしらねーし、心なしか垂れ下がったクロワッサン状の尻尾も元気が無いように見える、大丈夫か?


「しかし山で遭難して雪とか死のコンボだぜ」


「うぅう、寒くて力が入らないのだ」


「やまで、ゆき、あく」


「?」


「まあいいや、おいで」


独特の濃い色合いの緑の髪、それに手で触れる、髪は虫襖(むしあお)と呼ばれる独特のソレ、玉虫の翅はねのようにやや暗い青を含んだ緑色の髪、触って何度も何度も確認する、触れてもこの色が変化するわけでも無い。


別名では夏虫色なつむしいろとも呼ばれて親しまれている、玉虫の翅(はね)は光の受け方で紫色や緑といった様々な光を放つ、古代から織物で玉虫色を表現するのは難しいと言われて高貴なモノとして扱われた、縦糸を緑にして横糸を赤を若干含んだ紫で構成したものが最上として扱われる。


間違い無くコレは最上、コレは俺の、手で雪を払う。


「きょう、きょう」


「ん、ササの力で少し無理するか」


じじじじじじっ、妖精の無限の命を等価にしてササの錬金術を行使する、斜面が徐々に光の粒子になって分解される、さらにそれが再構成される事で新たな物質へと変化する、巣穴が必要だぜ。


ちゃんどドアもつけるか、くふふ。


「よし、この巣穴で雪が止むまで引き籠るぜ」


「す、すごいのだ、魔法なのだ」


「え」


「すごいのだー」


そうか、こいつ俺の完全な一部では無いから俺の能力も何もかも把握していないのか?キラキラした瞳で見上げられると困る。


それ以上になんか恥ずかしい。


「……実はこーゆー事が出来るんです」


「首絞めて殺さなくて良かったのだ!」


「……色々出来るんで殺さないで下さい」


取り敢えず寝込みに首絞めしてくるお前の方がすげぇよ。

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