第431話・『野宿ジュクジュク』

奇妙な程に気分が晴れやかだ、キクタの件は落ち着いてから処理しよう、キョウと重なり過ぎたせいで精神が『落ち着いている』のだ。


キョウの俯瞰でものを見る特性を得て見方が変化する、あいつは今頃俺にメロメロだ、これで悪さもしないだろう、してもまた肯定して抱いてやればいい。


しかし土岐国栖がもっと自分を取り込んで欲しいと言ったのは驚いた、勿論拒否をした、表面上は変わっていないが落ち込んでいるのがわかる、なあ、どうしてそう思った?


してやるものか。


「んー、完全に迷った」


「マジか、なのだ」


「マジだ」


低山だと思って油断した、魔物の襲来もあって気分が高揚して動揺してしまった、こうやって迷っている時に無闇に『下る』のは危険だよなァ、麒麟の力を使って飛翔しても良いのだが頼り過ぎるのは酷だ。


あいつは俺に恋に恋してるから何時反旗を翻すかわからん、この間のキョウの一件もあるし危険な一部を行使するのは暫く様子見だ、なぁに、人間じゃ無い俺が山で死ぬ事はあり得ない、のんびり行こう、人間じゃ無いが人間らしく。


登りでは迷い難い、下りは迷いやすい、山で暮らした経験もあるので知っているつもりだったがこうも簡単にその状況に陥るとはなァ。


「食料もあるし土岐国栖は洞窟暮らしで頑丈だし大丈夫だろう」


「なのだ」


「あー、グロリアにこの山を下れば会えるのに畜生」


「ん?あのもう一人のシスターは畜生なのか?」


「本人の前で言ったらお前ぶっ殺されるぞ、まあ、グロリアに会ったらお前も俺の一部として体内に戻すがな」


「そ、その時に他の一部と同じように出来無いのか?」


「できませーん」


「ぜ、絶対に嘘なのだっ」


「嘘じゃねぇさ、お前はそーゆー新作なんだから、旧作にはなれねーぜ」


周囲を見回す、木々が風を気持ち良さそうに受けている、そろそろ暗くなるなぁ、予定では今頃グロリアと再会している頃なのに、このまま適当に下ってゆくと沢に迷い込む可能性がある。


急峻な山の沢には高い確率で滝がある、登攀道具無しで暗闇の中下るのは自殺志願者だよな、俺の身体能力なら出来るかもだけど……普通に怖くてしたくねぇわ、感性は一般人だぜ。


「キョウ、キョウ、普通の一部にしてくれなのだー」


「無理なものは無理だぜ、そんな事をしない、勿体ない」


「勿体ない?!」


「勿体ない事は良く無い事だぜ」


「そ、そんな理由で―――」


「それに今のお前を気に入ってる、何でもかんでも俺の命令に従う一部は足りてる」


「そ、それでも」


「足りてる」


今までそんな事を言って来る一部すらいなかった。


お前は面白いよ、さあ、野宿の準備だ。

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