第430話・『優越感は優越感でしか無く、気持ち良く無い』

キョウの動きが完全に停止する、呼吸をしているのか???不安なぐらい不自然な停止、二人は混ざりあったまま?


自分のキョウはもう戻って来ない?不安は大きくなる一方で体は適切にキョウの介抱を始める、ゆっくりと瞼が下がる、落ち着いた?


寝かし付けながらどうしたものかと空を見上げる、頬が震えている、笑っているのか?キョウ、何があったのだ、それを教えて欲しい、ああ、そいつだけじゃなく自分にも。


結局はメスのキョウの嫉妬が起因だろうが原因はそれだけじゃないはず、キョウはメスのキョウを封印したと言っていた、だったら誰かがそれを?一部として曖昧な認識を持つ自分からは想像出来無い事だ。


キョウの命令を無碍に出来るような一部が存在するのだろうか?それではこの体はキョウのものでは無くそいつのもの?不安が大きくなる、そしてそんな一部は消してしまった方が良いと確信する、今回の件もある。


キョウはキョウだけのものだ、メスのキョウもその一部も己の存在を弁えるべきだ。


「どうしようもないメスのキョウとどうしようもない一部なのだ」


自分はキョウに他者として望まれてるし一部としても望まれている、メスのキョウと一部の皆の良い所取りの一部だ、だからこそ嫉妬されて狙われた。


「土岐国栖にメスのキョウが嫉妬したんだぞ、そうだろ、キョウ」


「んー」


「起きて、土岐国栖を見るのだ」


「んーー」


嫌がるように首を振る、え、起きてるのか?色々と聞きたい事もある、そもそもどうして過去の一部と違って土岐国栖だけこのような『自由性』を与えられている?


それがどのような意味を持つのか知りたいと思うのは当たり前の事のように思う、キョウ、どうしてなのだ、キョウが教えてくれないと土岐国栖は何もわからないぞ?


あの狭い洞窟から連れ出してくれたキョウ、キョウの望むがままに変化した土岐国栖、だけど一部になっても体を重ねても言葉をくれないと何も伝わら無い、そんな一部にしたのはキョウだから。


「安らかな顔をしてまあ、少しムカつくのだ」


「ん」


「かなりムカつくのだ」


「んーー」


「どうして、あ、どうして」


「――――」


「土岐国栖を完全な一部にしてくれなかったのだ」


そうすればこんなにも悩む事は無いのだ、キョウの事だけを考えて動く生き物になれる、今の自分はそうでは無い、土岐国栖は土岐国栖の事だけを優先している。


自我があるのだ、それはいらないものではないのか?美しいキョウの完全な一部になれた方が幸せでは無いのか?他の一部はみんな悩みも無く幸せそうに従属している。


どうして、どうして自分だけ。


特別である事が苦しい。


ああ、メスのキョウもそうなのか?


「キョウ、早く起きて、お話しよう」


出来る事なら普通の一部にして欲しい、初めてそう思った。


優越感は長く続かなかった。

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