第402話・『耳尖りバター』
命を刈り取る気だ、自分は他の一部と違ってキョウの中で再生は出来無い。
全く新しい一部、他者としても認識される一部、だがそれが欠点だ、キョウの能力を受け継いでいない。
他の一部は死んでもキョウの中で再生が可能だ、自分にはそれが無い、半端もの、中途半端、出来損ない。
防戦一方で攻撃出来無い、当然だろう、あの体は愛するキョウのものだ、お前は攻撃出来無いだろと笑っているのだ、でも私は出来ると、そしてこの体は私のだと。
「ハァハァハァ」
「お前より強い一部なんてそれこそ沢山いるよォ、お前である必要は無いんだ、キョウに餌を与える役がっ」
「き、キョウに、教育されたのは土岐国栖(ときくず)だけなのだ、それは……特別な事なのだ」
「傲慢だね、聞こえて無かった?耳を削ぎ落とそうねェ」
ゆっくりと歩いて来るもう一人のキョウ、全く勝てる気がしない、キョウの体を放置して逃げ出す事も出来無い、つまりは敵わぬ相手を前に状況を打破しないとっ。
勝たなくて良いのだ、キョウをどうにか取り戻せるのならっっ、切り替わりは一瞬だった事を考えれば正に『生理的』に切り替わるそれだけの事、体の支配権は微妙な差。
それをどうにか引き出さないとっ。
「キョウっ」
「キョウは私ぃ」
軽々と振るわれるソレが必殺の一撃となって廃墟を蹂躙する、こちらの命を奪う事に躊躇の無い必殺の一撃、粉塵で何も見えない、尻尾を逆立てて気配を探る。
迫るソレを必死になって回避する、ファルシオンは轟音をまき散らしながら迫るので予想がしやすい、飛び込む、何時もの柔らかい感触、でも、でも匂いが違うように思える。
それこそ何もかもっ。
「捕まえたのだ」
「つーかーまーえた」
「キョウっ、戻って来るのだ」
「んふふ、死んで」
「耳尖りを捕まえるゾ、食べ放題だ」
「ん、っ」
顔色が変わる、顔色……表情が一瞬呆けたようになる、やはり効果がある、ここに来てキョウの食欲に期待してしまうとはっ、何とも情けない展開だが仕方無い。
舌打ちが聞こえる、そうだろう、もう一人のキョウの貪欲さを知っていれば舌打ちもしたくなるだろう、顔に手を当てて唸る、おいで、おいで、土岐国栖のキョウ。
もっと土岐国栖を教育して、もっと土岐国栖を改造して、もっと土岐国栖を調教して。
もっと土岐国栖をキョウにしてっ。
「こ、の、はちゅうるい―――――――」
「さよなら」
「くっ、あ……ん?ただいま」
「おかえり、キョウ」
キョウは何時もの優しい笑みで帰って来てくれた。
耳尖り凄いのだ。
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