第400話・『特別な一部は自然に産まれる、生まれる、膿まれる』
廃墟と化した愛のマイホームを打ち砕く電光石火の一撃、積んだ肉の山が崩れて死臭とハエが一斉に溢れ出る。
キョウが叫んで教えてくれなかったら真っ二つだったのだ、それ程に尋常では無い一撃、空圧だけで小屋が崩壊するのを横目に態勢を整える。
一瞬で切り替わった、自分の知っているキョウが自分の知らないキョウになる、キョウから聞いてはいたが見るのは初めてだ、三人のキョウの一人。
つまり自分のキョウでは無い。
「何なのだお前、キョウの餌を粗末に扱って」
「んふふ、いらなぁい、お前の餌なんてキョウはいらないもん」
粘度があり糖度もあるねちっこい声、それなのに鳥の囀りのような軽やかさと愛らしさもある、同じキョウの声なのにこうも違うのか。
能力に狂っているキョウに近いように感じたが所作が初々しく乙女らしい、あの時のキョウはまるで獣、やはり違うのだ、そして自分を殺そうとした。
キョウの愛剣であるファルシオンを軽々と担ぎながら唇に指を当てて少女は笑う、笑われても困るのだ、こっちは命を奪われそうになったのだ、命を奪われたら二度とキョウに餌をやれないのだ。
「邪魔をするな、キョウに変われ、餌やりはまだ終わって無いのだ」
「あら、吠えるんだァ」
「お前はキョウじゃないのだ、返せ」
「返さない、キョウは私のだもん……私に逆らうだ何て、ホントにキクタみたいな特別な奴」
「?」
「死ねって事だよ」
一瞬で距離を詰められる、笑みを無くしたキョウはこうも美しい、だけど何時でも笑っているキョウの方が好きなのだ、死肉を漁りながらでも……綺麗な笑顔で喜んでくれる、こいつは違うのだ。
こいつはキョウと違って純粋では無い、全ての行動に意図を感じる、キョウを独占するための意図を……尾で地面を叩いて跳ねる、人間では出来無い動きに少しは戸惑うかと思えば余裕で追撃して来る。
ファルシオンを叩きつけた地面から土を抉るようにして空へとぶちまける、石飛礫でもこの数とこの速度ではっ、急所を庇うようにして転がり落ちる、口調はアレなのに攻撃は過激で熱烈だな、いたたたた。
「ころーす」
「どうして、殺されないと駄目なのだ」
「んふふふ、キョウの特別になりかけてるから、シネよ」
「それは」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、部下子もっ、アクもっ、クロカナもっ、キクタもっ、呵々蚊もっ、レイもっ、どつもこいつもどいつもこいつもどつもこいつもどいつもこいつもどつもこいつもどいつもこいつも」
狂気が溢れ出る、瘴気が死肉の腐敗をより進める、ファルシオンをズルズルと引きずりながらキョウの姿をしたキョウでは無いそいつが笑う。
どうしようも無い殺気。
「んふふ、死んでも大丈夫、お前より良い一部を私が選出してあげる」
「嫌なのだ」
「ん?」
「お前の望みに従うのは嫌なのだ」
「―――――――――――」
「お前はキョウでは無いから、お前がキョウだったら従ってやっても良いのだがな」
お前はキョウでは無い。
だからお前こそ果てろ。
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