第395話・『腕をあげる、右手と右手の二本で左手は無い』
キョウの見せた事の無い行動に初めて戸惑う、餌を他者に与える、それは最大限の好意を示す。
人間の腕を差し出して地面に置く、後は興味が無くなったのか餌に集中する、何とも愛らしい表情で食事を再開する。
しかしチラチラとこちらの様子を窺っている、地面に置かれた女性の腕と思われるソレに歯を突き立てる、血の味、肉の繊維、生々しい。
美味しいとかまずいとか以前の事で何の調理もされていない肉の味だ、それがどのような生き物であれ大差はない、もぐもぐもぐ、吐き出す程のものでも無い。
ドラゴンは人を食らうが自分はどうだろう、取り立てて美味しいとは感じないがキョウからわけてもらったと思うと感慨深いモノがある、胸に来るものがある。
もぐもぐもぐ、キョウの思い遣りで少しだけ美味しく感じる。
「おいしゅおいしゅ」
「キョウは優しいのだ」
「あげりゅ、とくべちゅ」
こちらの方を向きもしないでそう呟く、特別、キョウには『自分のような存在』が多く内包されているがその中でも特別って事で良いのだろうか?
キョウの中に溶けた時にそれは理解出来た、理解出来たが彼女たちは自分と『かなり』違うように見受けられた、完全にキョウの意思に従っている、いや、一つの意思なのか。
自分はそうでは無い、ある程度の自由は与えられている、さざ波の音を聞きながら肉を齧る、もぐもぐもぐ、人間の形を失っていない腕も徐々に単なる肉の塊になってゆく、もぐもぐ。
死肉を漁るキョウは朝まで漁るだろう、何時までも何時までも肉が無くなるまで漁り続ける、その光景を目に焼き付けよう、しかしキョウの愛情が入っていると思うと味付けしていない人の腕でも食えるものだ。
愛情は最高のスパイス。
「うみゃいうみゃい、沢山ありゅ」
「そうだな、頑張ったのだ」
「あげりゅ」
すっ、また腕を差し出してくる……千切れた腕の断絶面を見詰めながら軽くまた狼狽う、妙に分け与えてくれる、じーっ、視線を外さずに何度も差し出す。
「キョウはいいのか?」
「あげりゅ」
「どうして」
「しゅきだからあげりゅ」
「好き?」
「ん」
渡すって感じでは無く、強制的に受け取る、そのまま死体の山へと向き直るキョウ、これだけ強欲な子が餌を分け与えるだなんて……少し感動する。
自分が成長したように、キョウも成長している?
「もう、あげにゃい」
「そうか」
「……………ほ、ほしかったら、やりゅ」
夜が明ける。
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