第394話・『うみゃいうみゃい死体をうみゃい』
流石に今までで最も多い餌を前に食べきれるかなと見てて不安になったがキョウの食事は終わらない。
殺すなと言われた、狩るなと言われた、どうもそれがキョウの本心とは思えずに命令を無視した、キョウの本心は別の所にある。
だから狩りを開始した、まあ、この時間帯に公園で寛いでいるような人種だから狩るのにさほど時間は必要としなかった、親子連れは子供を庇うので親もすぐに捕獲出来る、逃げるのも遅い。
狙いはそこだ、だけど結局は全て狩れたし良かったとしよう、潮風が死臭を攫ってゆく、最初はキョウも無言で睨みつけてきたが何処かでスイッチが入ったのか今は食事に集中している。
この世界で一番幸せな事はこの子に愛を伝える事だ、この子に餌を与える事、それはあの洞窟の中でも広い外の世界でも変わらない、変わるわけが無い、それなのにキョウが嫌がる『ふり』をするから――。
だから命令を無視した、キョウのお願いはなるべく聞いてやりたいが今回の件は自分が正しい、キョウはお腹を空いている自覚が無い時がある、餓死してしまう、だから自分が餌を与える。
くちゃくちゃくちゃ、肉をなぶる音が聞こえる、艶やかで下品で生きる為の音、それを聞きながら木に背中を預けてキョウを見る………月の光に照らされた彼女は美しい、きっと世界で一番美しい。
絶対世界で一番愛らしい。
「キョウ」
「んんんんんん」
「そうか、まだ食事中だものな」
「ん」
「ゆっくり食べるのだ、朝まで付き合うのだ」
「んみゃ」
前歯で骨に付着した繊維を削ぎ落としながらコクコクと頷くキョウ、爛々と光る瞳が闇夜に二つの星を生み出す、天上に輝くそれよりも遥かに尊い、遥かに美しい、遥かに遥かに輝いている。
キョウって両目で色合いが違うんだなァ、改めて見ると全てが計算し尽されたかのような美しい容姿、ドキドキする、この人が自分の愛する人、そうやって考えると何だか申し訳無い様な……こんなに綺麗な人を。
この美しさを維持する為にも餌やりは欠かさずやらないと。
「ほねはうまい」
「骨まで食うのか」
「ふくもうまい」
「服まで食うのか」
「じぇんぶおれの」
「そうだよ、全部キョウのだから安心してお食べ」
「んー」
「どうしたのだ?」
「あげりゅ」
キョウは微笑んだ。
人の腕を差し出して。
「え」
戸惑いは隠せなかった。
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