第392話・『餌やりは幸せな光景を壊してから始めないと』
山が噴火した時に海に大量に流れ込んだ溶岩が多い独自の風景、周辺は公園として整備されていて子供たちの声が聞こえる。
海沿いの遊歩道を意味も無く散策する、湧水の影響もあってか海の底にいる魚が観察できる程の透明な美しい海が広がっている。
土岐国栖(ときくず)はクロワッサン状の尾を振って実に楽しそうだ、周囲の視線もあるけど亜人と勘違いされているらしく何も言われない。
そもそもシスターが横にいる時点で何も言うわけねぇか………遊歩道からは海岸の景色を楽しめる、海へ突き出た場所に展望台が設けられているのが素晴らしい。
「割と目立つな……まあ、シスターである事とその尻尾がなァ」
「可愛い尻尾だろう?自慢の尻尾なのだ」
「そりゃそうだろうけど、その太さでは服の中に隠せないよな」
「隠せないのだ、隠したくないのだっ!」
「うぉ、い、いきなりブチ切れるなよ……何だよ、割と大事なのな、その尻尾」
「これが無いと丸まって眠れないのだ」
「そんな理由?!」
「他に何か?」
「い、いや、お前がそれで良いなら何も言わねぇわ」
海側に突き出てそそり立つ大きな奇岩がとても印象的な風景となっている、しかし周囲の視線はそんなモノよりも俺達に集中している、何せ俺は美少女だし、こいつは美幼女だし、長居すると目立つのは当たり前。
物珍しい二人が観光地にいるとここまで目立つのかと再確認、グロリアのような張り詰めた空気が無いしな、思えばグロリアと一緒にいる時はここまで視線を感じないような気がする、周囲も遠巻きでチラチラ見るだけ。
それだけグロリアが堂々と覇気を撒き散らしているって事か、恋人じゃなかったら緊張するような、あの独特な雰囲気、周囲から切り抜かれたように一人孤高に存在している、俺が横にいようがそれは変わらない、おお、怖い。
グロリアのいない外の世界は新鮮だ、そして寂しい。
「もう少ししたら俺の中に戻すからな」
「そうか、こうやって外の世界を二人で旅をするのも楽しいのに残念だな」
「諦めろ、気分次第で出してやる」
「まあ、巣穴にこもるのは嫌いでは無いのだ」
「俺は巣穴じゃねぇぜ」
「穴がある癖になのだ」
こいつの場合下ネタなのかどうなのか判断出来無いぜ、グロリアは下品な冗談を嫌うからどちらにせよ新鮮な感じではあるが………親子連れに思われるのかな、今の俺達。
しかしシスターに子供が出来るだなんて聞いた事はねぇし………どんな風に見られようが構わないけど土岐国栖の尻尾が小刻みに震える様に少し恐怖を覚える、このバカっ、口汚く心の中で罵る。
興奮している、周りに人間が沢山いる事に興奮している、つまりは餌やりを開始しようとしている、これだけの人数を前に何を――――幸せな光景だ、海沿いの幸せな光景、ぶち壊す?
今は腹も減っていない俺の為に?
「やめろよ、この光景を壊すのはさ」
「お腹が空いたと泣き出す前に……なのだ」
「泣かないから、頼むから、止めてくれ」
「あの小さい個体はどうなのだ?柔らかいゾ」
「頼むから」
罪深さが浮き彫りになるのを恐れた。
グロリアもこんな気持ちになった?
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