閑話205・『甘くて柔らかくてそれは自分』
久しぶりに迷い込んだな、この街に来る事を迷い込むと表現するのはどうだろうと自分で思う。
しかも目の前にいるキョウから垂れ流される瘴気とも邪気とも言えない感情にどうしたものかと溜息を吐き出す。
キクタを今からでも連れて来ようかと割と真面目に考える、殺されたくはねぇし、グロリアと逸れてからキョウ曰く『爬虫類』に甘えているのは事実だ。
しかしその事実を前に俺に出来る事は無い……もう好きにしてくれとキョウを見詰める、湖畔の街は今日も静かだ、こんな時ぐらい騒がしくあって欲しいと心の底から願う。
「教育したんだ」
「まあな」
「自分の事で精一杯の癖にどうしたのォ」
「近付くな」
両手を広げて甘えるように近付いて来たので警戒する、石畳の上で砂利を擦りながら何処かに逃げ場所が無いか注意深く見渡す、本当にヤバくなったらキクタが助けてくれる。
今のキョウではクロリアでも麒麟でも無理だな、キョロ辺りにお願いしても鼻で笑われて終わりそうだし、ぴたり、キョウの動きが止まる、男なら飛び付きたくなるような笑顔のままで。
しかし自分自身だからな、俺は何とか制御出来る。
「柔らかくて良い匂いがするよ、来なさい」
「知ってるよ、俺だもん……ち、近付くとファルシオンでぶった切るぜ」
「そぉ?どうして今日は来てくれないのォ?」
ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、見る者を魅了するような美しい髪が揺れるのだが……幽鬼のソレに見えるのは気のせいか?こんなに綺麗なのに。
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、今の雰囲気と合わさってかつてのグロリアを彷彿とさせる、あーー、現実世界に帰りたいぜっ。
「いや、今日は駄目だぜ、お前……俺をこの世界から出さないつもりだろ」
「そぉだよぉ」
「やっぱりっ、あ、愛してくれるのは嬉しいけど重すぎる愛は男を駄目にするぜ」
「女の子じゃん、キョウ」
「え、あ」
「女の子だから危ないところに行かないでここにいなよォ」
「おんなのこ、じゃないし」
「こんなに可愛いキョウが男の子なわけ無いじゃん、んふふ」
「おんなのこ」
「そうそう、女の子、しかもとびきり可愛い女の子」
粘度のある甘ったるい声が俺の耳を震わせる、おれもこんな声だっけ、あれ。
まとわりつくのやめて。
「か、帰る、帰るっ」
「ちっ」
舌打ちが最後まで耳に残る。
起きても消えなかった。
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