第389話・『 あなたはかわいい、わたしもかわいい』
目覚めは突然、満腹感に満たされている、コレは食べたな、アレを食べたな――――ざーざーざー、じじっ。
既に雨は止んでいる、伸びをしながら周囲を見回す、雑草や木の枝で構築された円錐テントの中にいる。
竹竿を支柱にしているようで草の束で屋根をちゃんと作っている、そしてテントの内側に垂れて来ないように支柱の合間に紐を巡らせている。
中々に知識も技術もあるじゃないか、あの洞窟に住んでいた先住民の古書を読み漁っていたと聞いてはいたが……エルフライダーの知識も感性も共有していない。
故にあいつは他の一部と違って自分が一部だと認識出来てはいない、また俺もあいつの事を一部だと理解しているがその中身の全てを理解していない、それをすると折角の教育が無駄になる。
あいつが何の天命職かわからないし、考えている事も深くはわからない、そんな一部は初めてだ、あの友達の件があってから俺は少しおかしくなったのかな?首を傾げる、あいつは何処だろ。
「土岐国栖(ときくず)ーーー、おーい」
「おぉ、起きたのか、沢山眠れたか?」
「お前は俺の母親か」
「?違うと思うのだ」
「天然か」
「?違うのだ、人工物なのだ」
「て、天然じゃねぇーか」
「???のだ」
焚き火の用意をしていた土岐国栖が首を傾げる、流石に昨日の大雨の後に焚き火をするのはかなり難しいがこいつなら問題無さそうだ、見ていると少しでも濡れた地面を避けて排水性の良い場所を選んでいる。
へくち、くしゃみをすると心配そうにこちらを見る、良いからと促す、近くの川から持って来たのか小石や砂利を地面に敷き詰めてさらに水はけを良くしている……ぺちぺち、紅葉のような小さな手で器用な事。
その上に丁寧に太い生木を平行に並べて焚き火の基礎を作る、チラチラ、時折俺の方を見る、しかしその手際に乱れは無い、こいつって世間知らずなだけで何でも出来るよなァ、かなり頭が良い、かなり使える。
「上手だぜ」
「そうなのか、他の人と比較した事が無いのでわからないのだ」
「俺より上手だ」
「そうかそうか、キョウはお腹は一杯か?」
「ん?そうだな、満腹だぜ、寝る前に何か食ってた?」
「リンゴを食べていたのだ」
「リンゴ?そんなに何個も食べてたか?マジで満腹なんだけど、ほら、ぽっこりお腹、妊娠したようだ……また赤ちゃん産みたい」
「卵じゃないのか?」
「卵じゃねぇぜ!?え、俺、人間ですけど」
「――――――――そうか」
「慈愛の笑みは止めろ」
太目の木の破片を屋根のような形状にして焚き火の上部に平行に並べる、そして鼻歌………俺をからかうとは一部では珍しい、珍しいよな?
何だか嬉しくなって横に並ぶ。
「なんなのだ」
「お前可愛いな」
「――――――そうか」
「お、お前の方が可愛いよって感じの慈愛の笑み止めろ」
や、止めなくてもいいけど。
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