第388話・『エルフはエルフはエルフは』

捕食行為が美しい生き物だと思う、生物が餌となる対象の動物を捕らえて捕食する様でその生物の基本が理解出来る、捕食……さらに狭い意味では肉食動物が餌となる対象の動物を殺して食う事だ。


動物行動学的観点で考えるならば肉食動物が摂食に際して捕食対象となる生物がまだ生きている事が重要だ、そして逃げるなり抵抗するといった防御行動が可能な状態である事、それを様々な手段で拘束して抵抗行為を排除して肉を引き千切る。


卵を食う蛇のような場合も違う、死体をあさるハイエナの行為も違う、微生物を水と一緒に体内に取り込むのも違う、それらは全て捕食では無い、しかし目の前のコレは死んでいる『耳尖り』を食べているが捕食だと確信する、己を補う為の食事、精神的にも肉体的にもっ。


ああ、個体群生態学や群集生態学的観点で考えるならば正解だろう、捕食と被食の関係を紐解くならば『捕食』とは動物だけのものでは無い、植物や微生物も『食う』の定義は持っている、肉食や捕獲とは別に寄生行為すらも広い意味で考えるならば捕食なのだから。


食うか食われるかの深い密度で結ばれた関係を食物連鎖や食物網と呼称するのであれば……食う側はキョウであり、食われる側は耳尖りなのだ、これだけ完璧な組み合わせは無い、食われている耳尖りも笑っている、死んでいるのに笑っているよ。


「うまぁい、うまぁい、よく、よぉく、これ、わかったぁああああ、ほめりゅ」


「美味しいのか……ついでで持って帰ったのにこれだけ喜んでくれるとは思わなかったのだ」


体をくの字に折り曲げてキョウがブツブツと何かを呟いている、興奮しているのか雨に濡れながら生首を見詰めている、がじがじがじ、噛む噛む噛む、リンゴの皮が剥けるように生首の皮も剥ける。


その光景があまりに美しい、しっくり来ている、きっと耳尖りはキョウ専用の餌なのだ、それしか食べられない生き物って世の中にはいるのだ、それ以外を食べていても身にはならない、わかるのだ。


お尻を大きく上げて一心不乱に食べている、食べられている耳尖りも食べているキョウも耳尖りを捕まえた自分も幸せなのだ、みんな幸せ、こんなに素晴らしい世界が他にあるだろうか、無いだろう、確信する。


「キョウ、あまり急いで食べるとむせるのだ」


「けほっ、こほっ」


「本当に赤ちゃんなのだ、ほら、背中トントンしてあげるのだ」


「えりゅふうまい、えりゅふうまい、えりゅふすき、えりゅふは、おれ、これないとしぬ」


「そうかそうか、キョウの専用の餌がコレなのだな」


「えりゅふ」


モゴモゴ、口に肉を入れたまま喋るから何を言っているのか理解し難い、そして何よりそれが無くても舌足らずになって幼くなっている、しかし捕食する様は妙な威厳がある、それが自然の摂理だと姿で教えてくれる。


キョウは肉食動物だったのだな、理解したのだ、ドラゴンと近いのか?色々と聞きたいがそれをしない、それは出来無い、だってこんなにも美しい光景は見た事が無いから、雨なのに太陽が見える、世界が照らされている。


「うみゃうみゃ」


「―――――――――――」


「みみはしゃいごなので、みみはしゃいごにたべるので、とらないでください」


「ああ、とらないのだ、全部キョウのものなのだ」


「とったらころす」


「とったら殺して良いのだ」


「?」


「ゆっくりお食べ」


「みゃう」


そうか、そうなのだ。


この耳尖りを見付けてキョウに捧げるのが――――そう。


理解したのだ。


「みゃみゃう」


ゆっくり食べなくてもやっぱり良いのだ。


また、すぐに、ね。

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