第386話・『耳尖りは削れば人間になれるよ、良かったねエルフ』

雨の音なのか血の音なのかどちらにせよ液体である以上は区別出来ない、しかし微睡みの中でも人の生死を夢想する。


俺の一部が俺の為に人殺しをしている、それは愛情を簡略化したもので最も伝えやすい、俺は――――俺の為に誰かを殺す一部が大好きだ。


雨音は激しくなる一方……断末魔も延々と響き渡る、暗く深い森の中で命が消えてゆく、豪雨、俺は雨に濡れないように『雨避け道具』の代わりになる樹木を見上げる。


既に俺の前には死体が幾つか積まれている、ずるるるるるる、俺の影に吸い込んで捕食する、こいつらの全てが俺に馴染んで腹を満たしてくれる、エルフでは無いが食える。


愛情も伝えれるし俺の餌にもなるのではりきっているのか?あいつはドラゴンなのに人は捕食しないらしい、うーん、無理矢理食わせて吐かせてやるのもいい、吐かなくなるまで吐かせる。


だけどあいつが嫌がる姿を見るのは何だかヤダ、今までの一部には感じた事の無いおかしな感情、自分が一から育てたからかな?兎に角、死体は増える、腹は満たさせる、ついでに記憶を読み取る。


あああ、うん、森で獣を狩ってみんなで食べたのか、だとするなら……森で俺の一部に狩られて食べられても同じだ、結局は何も変わらない、俺がここで熊に襲われて食われても同じ、同じって安心する。


土岐国栖(ときくず)の奉仕は続く、確か後一匹だよな、後一人?一人なのか一匹なのか疑問に感じる、ぽーい、木々の上から何かが投げられる、瞬間に虚空が俺を見詰める、瞳の無い虚空が俺の視線に絡む。


瞳が無くても視線ってあるんだ、それとも死線?……雨の中、生首がゴロゴロと転げ回る、二十歳ぐらいの男性だと思う、可愛い顔をしていたので濡れる事も構わずに取りに行く、髭が生えている方がタイプだが……悪く無い。


「可愛い、この子気に入った、兜をしてるって事は戦士かな」


ぎゅうと抱き締めるとまだ温もりがあって懐炉代わりになるなと思う、そうか、死体は懐炉の代わりになるのか、血が服に滲むのも気にせずに生首を見詰める、おめめは何処に行ったの?無くしたの?


顔面には血がべったりと張り付いていて赤鬼さんのようだ、何だか人外ちっくで愛らしい、端正な顔をしているがやや骨ばっているのも個性的で可愛いと思う………そう、好みから少し外れているぐらいが一番可愛い。


「えっとたしか」


かさばる死体、それを漁る、まだ生き残りいたっけ?この子で最後だと思ったけど土岐国栖は帰って来ない、早くグロリアのいる土地にまで行きたいけどこの豪雨で無理をするのはなァ。


麒麟の力を行使するとあいつの権限が大きくなるような奇妙な感覚があるので基本的にキョウとキクタに使用しないように言われている、クロリアもキョロも反対、どんだけ嫌われてるんだあいつ。


俺に恋をして俺を手に入れようとしているそれだけの奴、だけどまあ……みんなが言うのなら仕方ねぇか、先日使った件は仕方無かったけどキョウとキクタにガミガミ言われた、いや、キクタは違うか。


キクタは優しく諭してくれる。


「お、あったあった」


死体の中に髭面発見、ご、剛毛、こいつも戦士かな?なんてバランスの悪いパーティーだ、くくくっ、喉の奥を鳴らしながら髭面から髭を抜く、そしてそれを可愛い顔のこいつに移植する。


一本一本抜くのは面倒なので肉と一緒に剥がしながら錬金術の力で移植する、ふふふふふふふ、あは、こうやるとさらに好みになる、髭面の可愛い子の完成、抉った死体が恨みの視線を俺に向ける。


だったら地面を見てな、向きを変えてやる。


「ふふふふ」


「何がおかしいのだ」


土岐国栖が戻って来たのか木々が揺れる、下りてくれば良いのに……まあ、動物だし、やりたいようにやらせよう、そういえば姉ちゃんが天命職だと言っていたが何なんだろう、そこまでは読み取って無い。


しかしこれだけ死体の山を生み出せるのなら素晴らしい能力なのだろう、命を奪えるなら何でも良いんだぜ、それこそ姉ちゃんだって―――――――ん、しかし帰りが遅かったな。


「んふふ、みてみて、これ、俺がつくったの」


「キョウはお裁縫が好きなのだ」


「おさいほう、これもか?……ん?なにそれ」


「ほいなのだ」


生首が投じられる、またこの子のアクセサリーになるかなと見る。


しかしそこに転がっているのは奇妙な………エルフじゃないが、エルフのような。


「少しだけ耳尖りなのだ」


「みみ、が」


エルフの血が入っている、何処でこれを見付けた?


ぐるるるるる、腹も喉も鳴る。


鳴る。

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