第385話・『ころしたらうれしい、うれしいところす』

魔物の襲来についてはわからなかった、しかし過去に例が無いと言ってたので原因は異分子である俺だろう。


グロリアは既に別の土地に去っている、伝言は受け取ったのでそこまでの道のりを楽しむ、変な組織は崩壊した、自然に崩壊した。


『自然』を定義して『文明』を嫌う癖に『文明』を使ってドラゴンと人間の混合種を生み出した、矛盾を抱えたまま死ね、電光になって急いでも良いけどさ。


初めて洞窟の外の世界を知る土岐国栖(ときくず)の質問に何度も答えてやる、俺もグロリアと旅をし始めた頃はこんなんだった?可愛い一部には何でも教えてやる。


しかし雲行きが怪しいのだけが心配、南国の空は不機嫌に荒れる、その荒れ方は普通では無く嵐となって世界を苛む、それもまた自然だ、受け入れるしか無いがこいつはなァ。


嵐の時は洞窟に引き籠って丸まって寝てたらしいし……初めての外の世界でそんな目に……荷物はグロリアに預けてあるので雨避けの道具も無い、困った、雨が降り注ぎ始める、あー、仕方無く木の下で休憩する。


「嵐なのだ」


「初めての旅で不運だな、どうだ、外の世界は?」


「キョウが横にいるのだ」


「あん?」


「外の世界に出てもキョウと一緒なのだ」


クロワッサン状の尻尾を逆立ててプルプルと小刻みに痙攣させる、そして笑顔、外の世界に出たかどうかはどうでも良くて俺が横にいるかどうかが大事らしい、可愛い奴め。


教育したからな、教育して一部にして、ざーざーざー、雨だ、あめのおと、教育して、きょういくして一部にしたのはめずらしい、だからここまでこわれた…………ざーざーざー、さいしょから一部だよ。


最初から一部、生まれた時から一部、俺は何を考えてたんだ……こいつが最初から一部なのは当たり前じゃないか、そうしないと目が無いように、腕が無いように、そんな風になってしまう、なってしまう。


だからこいつは、おれの、いちぶ。


「あ、れ」


「キョウ、気分が悪そうなのだ」


「だい、じょうぶ、いつものこと、雨の日は少し、おかしくなる」


「どんな風に?」


「気分が昂って、どうでもよくなって、ぜんぶ、ころしたいぃ」


チカチカと光が何度も何度も瞼の裏で弾ける、誰かに命令されているような支配されているような自由なような矛盾した感情に胸がときめく、殺せば、自分以外がいないと他人の視線が無くなる。


他人がいないと平和になる、他人がいるから光が弾けて気持ち悪くなる、俺だけが存在する世界なら大丈夫、光が弾けて気持ち良くなる、どっちどっち、土岐国栖は俺の事を一心に見詰めながら何度もうなずく。


小さな舌がチロチロと蠢いて噛み締めた口元から垂れる涎を舐めとる、グロリアがいない、いないから余計におかしくなる、ぐろりあはいちぶでは無い、たにんでもない、いちばんたいせつなひと、いないとおれは。


よういにくるう。


狂う。


「キョウ、見てごらん」


「あ」


「大きな生き物が沢山来たのだ」


冒険者だろうか、雨の中を何事かを呟きながら走っている、重装備では無いのが救いか……こちらには気付いていない、雨の世界で少しずつおかしくなる俺の精神、揺さぶるな。


揺さぶるな揺さぶるな、揺さぶられている。


「あれを殺してあげる、キョウが苦しまないように、嬉しくなるように」


「うぁ、いたい、あたま」


「外の世界に出て一番うれしい事は……キョウを喜ばす為の生き物が無限にいることなのだ」


ニッコリ、邪気は無く。


殺意しかない。


好き。

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