第380話・『キョウ育でキョウになる』

殺して殺して殺して殺して、俺が喜ぶ。


無垢なまま変化するのが一番良いと思う、悪意に染まらずにそのままで破壊的な方が俺に近い様な気がする。


うーん、自らを俯瞰で見る事は苦手だが一部の連中の意見を取り入れるとそーゆー事らしいぜ、どーゆー事だよ、今度具現化してみんな説教。


「うん、良い仕事だぜ、我ながら」


手際良く命を奪えるようになった彼女にありったけの愛情を与える、しかし最近は不満そうだ、命は奪えば減る、この洞窟の中にある命は限られている。


さらに言えば洞窟の外の方が大きな生き物が沢山いる、その事も知っているのでさらに悩みは深くなる、考えれば考える程にこの洞窟の中に住んでいる理由を『無くして』しまう。


後は自分に命令を与えた組織の人間も『奪える命』だと気付けば教育は終了する、定期的にこの洞窟に訪れるらしいので俺はニマニマ笑いながらその日を待つ、勿論彼女の前では天使のような笑み。


土岐国栖(ときくず)の成長を待ちながら巣穴で丸まる、横には教育されてキョウ育されて俺に近付いた彼女の姿、目が爛々としている、奪える命の事を夢想しているのだろう、良い仕上がりだ。


そしてこれも自分で理解して欲しい、外から来る生き物を殺した時に俺は『必要』以上に喜ぶ、それこそ異常に、んふふふ、外の生き物は珍しいから物凄く喜ぶ……そう、洞窟の中の生き物より外の生き物を殺した方が俺は喜ぶ。


全ては彼女の成長を促す事へと繋がる、彼女を見る、髪は虫襖(むしあお)と呼ばれる独特のソレ、玉虫の翅(はね)のようにやや暗い青を含んだ緑色の髪、撫でてやるようなことはしない、殺した時け撫でてやる、命を奪えば褒美が転がり込む。


学べ。


「今日は何も殺せなかったけどちゃんと洞窟の警備をしたのだ」


「ふーん」


「のだ」


小さな声で語尾だけ呟く、警備をすれば組織の者は褒めてくれただろう、しかし俺は全く褒めない、そればかりか苛立ちを含んだ声で返事をする、彼女の価値観を根こそぎ奪う為にだ。


そこでまた学べ、俺がどうして苛立っているように見えるのかを学べ、それはお前が警備なんか下らない事をして命を奪う時間を減らしているからだ、遠くで指示を与える者と一緒に生活する者、比重は少しずつ変化する。


そして警備する事をサボるようになる、巡回する事を『意味の無い』時間だと理解するようになる、そして俺に奉仕する為に活動を始める、愛情に飢えているので初めて与えられたそれは麻薬のように彼女を支配する、支配してしまう。


「今日は沢山殺したな」


「そ、そうなのだ」


「命は世界で一番尊く『大切』なものだからな、それを他人の為に奪うってのは最高の愛情表現だ」


「ぁぁ、わかりやすいのだ!」


「そうだろ、バカでもわかる簡単な理屈さ」


「のだ!」


「だからそれをされると相手の事をもっともっと好きになっちゃう、俺の為に命を奪うお前をさ、んふふ」


「の、のだ」


「俺と仲良くしたいならわかるでしょ」


キョウに寄る、しかし私にはならずに俺は俺のまま。


俺のままこいつを。

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