第379話・『俺になれてる実験』

教育をするのは簡単だ、ここにいてドラゴンを護る為だけに生きている少女、それ以前の記憶は曖昧で実験動物として過ごした日々が薄っすらと残るだけ。


人の手垢がそこまで染み込んでいない存在に興奮しちゃうよ、少しずつ残酷に残虐に残忍に残念な生き物に変化させてやろうと心の中で強く誓う、何せグロリアと同じ事が出来るのは嬉しい。


寝食を一緒にして侵食する、すぐに懐くこいつは頭がユルユルで昔の自分を見ているようだ、何処もかしこも警戒心が無くて素晴らしい逸材、取り敢えず俺以外のモノを信用し無いように調整する。


特にこの島を管理する変な組織、自然が自然がと口にするくせに人工物であるお前を頼って消耗品として使い捨てようとしている、この島だって遠い未来にはどうなっているかわからない、人工物も自然物も消耗されて消えるだけ。


なのにお前だけ理不尽に扱われて可哀想、そう、愛情も与えてやるとさらに懐くしさらに壊れる、狂った教育には狂愛は必須なのだ。


「キョウの言う事はわかりやすいのだ、本には書いて無い事ばかりなのだ」


「そうそう、ちゃんと『生き物』を見たら全部殺すんだぞ」


「うん」


虫を踏み潰しながら彼女は笑う、今まで虫を殺さなかった理由は特にないだろ?でも虫を殺すと一緒に過ごす俺が喜ぶだろ?だから必ず殺すようになる、狭い空間での教育は実にやりやすい。


彼女は何の疑問も感じずに新たに俺に与えられた価値観によって虫を殺すようになる、そしてここで一工夫、小さな虫を殺してもあまり喜ばないように意識する……大きな虫を殺すと俺は飛び跳ねて彼女を抱き締める。


愛情を与えられた事の無い彼女はそれを学習する、大きな生き物を殺せば一緒に過ごす俺が喜ぶと学習する、それは俺が口で伝えては駄目な事だ、自然に彼女に学ばせる事で成長を促し羽化を待つ。


今まで一人きりで寂しさで埋まっていた頭脳は刺激を与えられて急速に急激に成長するのだ、虫から爬虫類へ、爬虫類から哺乳類に、徐々に変化する様を見詰めながら笑う、グロリアには暫く時間がいると連絡した。


ドラゴンの細胞は是非とも欲しいからさ……グロリアの望む俺になる為には必要なんだ、嘘でも無いが事実でも無い、しかしグロリアは全てわかっていますと受け入れてくれる、実に助かる、実にありがたい。


「キョウ、見てくれ、外から迷い込んだ生き物だっ、大きいゾ」


そろそろこの洞窟の狭さに気付くだろ、俺を喜ばす為にはもっともっと大きな生き物を殺さないと駄目だ……流石にあのドラゴンには手を出さないように釘は打ってある、ドラゴン大好きだし、俺。


洞窟の外には大きな生き物がいる事に気付くのに時間は必要としない、もっと学んでもっと俺に近付けば良い……教育をするのってこんなに楽しいんだと改めて実感する、ふふふふ、しかもそれが無垢であればあるほどに滑稽だ。


「この前のより小さいのだ」


不満そうにそう口にする事が多くなった、この洞窟の中にいる生き物は小さい、しかしそこで彼女はまた気付く………小さな生き物でも数を殺せば俺は手を叩いて喜ぶと、物量で埋めれば俺は喜ぶ、それも自分で気付いて偉い。


だから自分から望んで獲物を探して殺すようになる、ここで彼女はさらにさらに学習するのだ、故に俺が一番喜ぶことを理解する、大きな生き物を沢山殺せばもっともっともっとこの人は喜んでくれる、そう学習する。


「殺したのだ」


「三匹殺したゾ」


「大きい生き物を殺したのだ」


「大きい生き物を二匹殺したのだ」


「小さいけど沢山殺したゾ」


「殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した」


彼女に悪意は無い。あるのは俺に対する善意だけ。


本人が信じ切っているならこれは間違い無く善行だ。


そうなのだ。


「うわぁ、凄い、嬉しぃ」


俺は可愛く見える角度を意識しながら彼女に抱き付く。


ふふ。

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