第378話・『俺になれるか実験』

殺した魔物の一部を密かに取り込んで肉体の中で分析する、魔物を使役できるのはより高位な魔物だ、人型の魔物であれば栄養に出来る。


常に飢えているからな俺、それにドラゴンちゃんの事も心配だし問題は根源から叩いて根絶やしにしないとなァ、ドラゴンちゃんも幸せだし、俺も幸せになる。


土岐国栖(ときくず)つー素敵なお名前、なので俺も名乗ると呼び捨てにされた、いや、別にいいけど、見た目はロリだけど多分年上だしなァ、また巣穴へと案内された。


姉ちゃんはいつの間にか肉体へと戻っている、内側に感じるソレの溜息、何時何処で俺の体に侵入したよ、いや、姉ちゃんは『俺』だからその言い方はおかしいか、んふふ。


干し肉を食いながらそんな事を思う、ちゃんと塩や香辛料を塗布している、腐敗を防ぐ工夫だが中々に丁寧な仕事だなと感心する、時間を見付けて洞窟の中の日が差し込む場所で作っているらしい。


ああ、確かに天井無い場所があったもんなァ、干し肉は本来なら燻煙する事でさらに味わいが出るし長持ちもするが天井が無いからとこの洞窟内で火を使うのは流石に危険だろうなと思う。


燻製液に漬けた後に火を使って乾燥させるのだが手間もいるしなァ、この洞窟の中を見回らないと駄目だしそんな時間も無いか。


「どうだ!美味しいか?」


「美味しいよ、良く出来てるぜ」


「あはは、ミンチ肉が干し肉を食べているのだ」


「うるせぇよ」


「ミンチ肉と干し肉の合い挽き肉なのだー!」


「うっ、少し美味しそう」


ミンチ肉呼ばわりされてるけど不思議と不愉快な気持ちにならない……やはり夜は洞窟の中も冷えるなァ、藁だけでは死んじゃうぜと口にしていたら毛布を貸してくれた、どーゆー理屈かわからんが清潔感があって綺麗。


そう、洞窟の中で生活している割に全てに清潔感がある、まあ、化け物は化け物でも女の子だからなと納得する、ケラケラと笑う姿は普通の女の子と変わらない、つーか俺の周りはヤバい奴しかいないから凄く普通に見える。


「魔物がこうやって襲って来る事って今まであったのか?」


「無いのだ、この洞窟には魔物が求めるようなモノは無いのだ、人間がドラゴンを狩りに来るのはまだあるのだ、ドラゴンの肉体はお金になるのだ」


「そりゃそうか、こんな所まで来る意味は無いもんだ、つー事は魔物の裏に『意思』のある誰かがいるな」


「?」


「殺さないとな、きっちり、根絶やしにしないと問題は何度でも起こるから」


「そうなのか?」


「そうだぜ、覚えときな」


「覚えておくべき事なのか?」


縦長のスリット状の瞳孔が俺を見詰めている、こいつは任務の割に穢れを知らずの無垢だ、言われるがままにここに住み付いて警備をしているわけだぜ……自由になろうとすれば何時でも自由になれるのに。


キョウが俺を教育したようにグロリアが俺を教育したようにこいつに色々な『悪い事を』を教えたい、そして時期がくればそれがこいつの中で『良い事』になる、わらう、わらうわらう、そうだ、一部とか友達とかそうではなくてさ。


グロリアが教えてキョウが教えてくれた、こいつを『俺』にすればよい、ここまで無垢ならば間違った教育も嬉々として受け入れるだろう、バカだから、幼いから、くふふふふふふ。


そうだ、こいつが何処まで俺のように穢れるかやってみよう、してみよう。


変えてみよう。


「俺、暫くここにいていいか?」


「え、あーーー」


「いいだろ、二人だと寂しく無いんだぜ?これも覚えとけ」


「う、うん」


あと他人は信用するなよ。


覚えなくていいぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る