閑話202・『常識は常識2』

最近キョウが暴力的で困る、いやいや、暴力的なのは俺も同じだ、エルフの集落を滅ぼしたり意味も無く他者を傷付けたり。


しかしそれがエルフライダーの能力によるものなら素直に諦められる、だって、ザーザーザ―――――ほら、脳内が綺麗に洗浄されて思考の前後があやふやになる。


最近は湖畔の街のあちらこちらに花々が咲き誇ってきる、どれも可憐で華やかな色合いをしている、俺の心が『陽気』になったせいか?恋を自覚すれば春も訪れるってもんだ。


キョウと指を絡めて街中を探索する、何時もの二人だけの世界、何時もの一人だけの世界、鼻歌もついつい軽快に……そんな事をしているとキョウがいきなり豪快に腕を振り回す。


振り子のように落差のあるソレが関節にダメージを与える、いてててててっ。


「うらぁ」


「いきなり腕を売り回してどーしたよー、やめてやめて、俺の肩が壊れるから止めてくれ」


「壊れてしまえ!女の子を抱けない肩なんて壊れてしまえ!今ここで!!」


「物騒な事を言うもんじゃねぇーぜ」


口調が攻撃的になってるしつり上がった瞳が鋭く俺を睨む、キョウが何を望んでいるのかわかっているが気恥ずかしさの方が上回ってそれ所では無い。


恋は二度目だ、グロリアに続いて自分自身に恋をするだなんて予想もしなかった、視線を少し逸らしながらどうしたものかと思案する、絡めた指は細くて白い、そして温かい。


もっと女の子扱いしろと、もっと彼女扱いしろと左右の違う瞳が要求している、身長差なんて無い、同じ高さで睨まれると見下されているわけでは無いのに全身が硬直してしまう。


キスをしろ、命令は単純だ、プリッとした桃色の生意気そうな唇を見詰めながら心の中で溜息を吐き出す、そんなに簡単に出来るのなら街中を探索して時間を潰すこともねぇぜ。


昔はもっと簡単に出来たのに、誤魔化すように肩を引き寄せる、華奢なソレ、肉を食え肉を!あ――――俺が食わないと駄目なのか。


「わ、わかった、こうやって肩を腕で寄せればより恋人っぽいだろ!ほら、肩を蹂躙しなくて良かったろ?」


「んふふ、惜しい、惜しいなァ、あともう一歩だよォ」


「教えてくれないとわからないぜ」


「バカだなァ」


「……ほら、行くぞ」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるキョウがあまりに煩わしくて肩に手を当てたまま歩き出す、自分と同じ顔をしたキョウが自分と違う表情をすると胸がドキドキする、襲いたくなる。


催す、だけどそれを我慢して何とか理想の彼氏を演じようとする、グロリアには全てを曝け出せる、キョウにもそうだ、しかし恋愛が絡むとそこに意地っ張りの自分が存在していて『おかしくなる』のがわかる。


「キスだよ、キス」


「あぁ?………う………駄目だぜ」


そして何よりキスは昼間にするものじゃない、太陽さんが俺達を叱り付けるからだ……それを教えてくれたのは誰だったかな。


「そーゆーのは夜にならないと、しちゃ駄目だぜ」


「古風っ、子宮にロリを引きずり込む化け物が口にする台詞じゃないよォ」


「そーゆーのは夜以外でもして大丈夫だぜ」


「ど、何処から教えれば良いのやらだよォ」


それはあいつはしては駄目と言わなかった。


だからして大丈夫、孕むのも産むのも取り込むのも殺すのも駄目とは言わなかった。


大丈夫、だいじょうぶ。

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