閑話201・『祟木は偉い、偉くて優しい』
拘束されている……エルフライダーの能力に酔って捕食活動していたら森の中だった。
ここにエルフの集落があったのかそうでは無いのかわからない、何せ拘束されているし、何せ何も覚えて無い。
エルフライダーはすぐに記憶を無くしますよ、白檀(びゃくだん)を選んだのは正解だと思う、丈夫だし、香りも良いので落ち着く。
白檀は香木として使用する事も多い、そのままでも十分香りが立つ、蒸留して得られる白檀のオイルに含まれるサンタロールには多くの効果がある。
殺菌作用を始めとして利尿作用もあるので薬用にも広く利用される、貴族たちはその香りを好み粉にする事で胸のつかえを取ることに利用したり、爽快感を得る為に煙草のようにして吸う事も多い。
沈香との明確な違いは熱を加える過程が無くとも十分に芳香を感じれる事だ、くんくん、植物大好き、良い匂い大好き、拘束されててもうれしい。
「わはは、お腹も一杯だしなァ」
「ハァハァハァ、こ、このような事態に私しか具現化出来無いとはな、ひ、非力さでは自信がある」
「祟木、良くまあ、お前が俺を拘束出来たものだな」
「い、色仕掛けと白檀の香りを利用した、正気に戻ったようだし我ながら機転が利くと褒めてやりたいぐらいさ」
「幼気な女の子を拘束して偉そうにすんなし」
「エルフの集落を一つ消した事も覚えて無いか、自由にやるのも良いけど自分を鎮める手立てぐらい考えて欲しいよ」
暴走している状態で完全にリミッターが外れているとなると過度な能力使用で強力な一部は具現化し難いのか、それとも邪魔になるからしなかったのか。
祟木はおしっこするぐらい簡単に出せるからな、俺の一部の中では最もエネルギーを必要としない、研究職だし、ひ弱だし、線が全体的に細いし、しかし俺の身を案じて頑張って拘束してくれたのは感謝。
荒い息を吐き出している祟木を見る、太陽の光を連想させる金糸のような髪が美しい、しかも金箔を使用した金糸よりも生命に溢れていて見る者を魅了する、肩まであるソレを側頭部の片側のみで結んでいる……サイドポニー、活発的な彼女にとても良く似合っている、可愛らしいぜ。
瞳も同じように金色だ、見た目は愛らしいのに何処かライオンを連想させるような大らかで強い瞳、肌は研究職の宿命か透けるように白い、覇気に満ちているのに可憐でもある、矛盾は無い、二つを内包した俺だけの少女。
「それでここに括り付けたのか、すんすん、確かに落ち着くぜ」
「キョウは植物が大好きだし香りが良いものも好きだろ?地面を四つん這いで転げ回りながら必死だったよ」
「え、もしかして俺に襲われてた?」
「あはは、殺されかけたよ、食事中に話し掛けたらダメなんだな、良い教訓になった」
「教訓……キョウ君って呼んでみてくれ」
「?キョウ君?」
「………んー、何かジーンとする、祟木みたいなキャラに君付けされると滾るものがあるぜ」
「あはは、そんな事をしなくても滾って殺そうとしてくれたじゃないか」
「す、すみません」
責めるわけでも無く貶すわけでも無く事実を告げる祟木の表情は清々しい、殺されかけたのに呑気なものだぜ、殺し掛けた俺が言うのも間違っているかァ、ほんと、大切な存在を傷付けるのは死ぬほどに嫌だ。
しかし咄嗟に白檀を選んだもの凄いな、その香りは昂った精神を落ち着かせるには最適だし樹木の中でも五指に入る程に頑丈な白檀は俺を拘束するには最適だ、溜息を吐き出す、こんなに脆弱な一部を俺が殺し掛けた?
白檀の香りが眠気を誘発する、白檀は最初の頃は独立して生育するがある程度の大きさになるとその吸盤で寄主の根に寄生する半寄生植物だ、白檀が好きな理由は香りでも固さでも無く実はそこなのだが誰に伝えようとしても理解してくれない。
幼樹の頃は獲物を選り好みするのも愛らしい、イネ科やアオイ科に好んで寄生するのも何だか理解出来るような気がする、成長するにつれて徐々に寄生性も高まって悪食へと進化していく、好みも少しずつ変化してヤシ類やタケ類やなどを好む様になる。
その守備範囲は異様に広く宿主に成り得る植物は数えられない程だ、それだけ悪食で強靭にも拘わらず雌雄異株で周囲に植物がないと生育出来無いアンバランスな性質を持つ、故に栽培する事は困難で入手は難しい、このように自然に生えているものも近年では珍しい。
地域によっては伐採制限・輸出規制が掛けられているらしい…………何でもかんでも寄生して支配するのに周りに何も無いと自生出来無い、寄生しないと生きていけない、支配しないと生きていけない。
何だか。
「少しは思う所があるのなら正解かな」
「ん?祟木、何か言ったか?」
「何も言ってないけど何か感じてくれ」
そう言って祟木は朗らかに笑った。
何かを、感じているけど。
何だ。
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