閑話200・『偽雪2』

雪は雪でも溶ける事も無く冷たさも感じない雪、違和感しか無いけれどキョウの心象風景だと思えば違和感は無い。


この世界のルールはキョウが決める、本人は気付いていないけど望めば何だって『具現化』出来る、この街だけがキョウに優しい世界。


何時か現実世界で精神が崩壊して全てを投げ出してもこの街があれば大丈夫、キョウの全てを叶える事の出来る素敵な街、人だって夢だって望みのまま。


後は私がいれば事足りる、何時の日かを夢想する、もし私の望む肉体が手に入ら無くてもこの世界で二人で『創造』して過ごすのも良い、望めば赤ちゃんだって出来ちゃうかもだよ。


「雪だぜ」


「………ほら、キョウ、風邪を―――」


「キョウっ!!」


「へぁ!?い、いきなり抱き付いたら危ないでしょうがっ、全く……」


触れたら消えてしまいそうなのは雪では無くキョウの方だ、白い世界で空を見詰めている、その佇まいを見て胸がときめくと同時に痛くなる。


失われた過去の家族、幼馴染でもあったが家族でもあった、その人達を想って無意識に雪を具現化させている、その意味も理由もわからずに。


話し掛けると同時に抱き付かれて二人で地面を転がる、叱っても無駄なのかも、結局は『自分』可愛さで納得してしまう、キョウの望むままに。


いたたっ、受け身成功。


「いてぇいてぇいてぇ」


「そりゃそうでしょうに、ほら、立ちなァ」


「うぅ、キョウが俺をちゃんと抱き締めてくれなかったからだぜ」


「な、何をォう」


「痛いのは全部キョウのせいだぜ!ほら!膝小僧から血が出てるもん」


「な、う……ごめぇん」


抱き付いて来たのはキョウなんだからキョウが悪いじゃん、その言葉が言えずについつい謝ってしまう、傷口を見せられれば私が折れるのは分かり切った事。


軽く抱きしめてから手早く処置をする、傷口を清めてハンカチで巻く、すんすん、キョウはやや鼻声になりながら抗議するがこれは甘えているだけだなと冷静に分析する。


そもそも腕が千切れようが首が飛ぼうが『当たり前』として受け入れるぐらいは壊れているキョウ、雪は激しさを増すばかりで屋内へと逃げるように移動する、この民家も故郷の記憶から生み出したものだしねェ。


キョウが見た事無いって思っている建築物も本当は全て『見た』ことがあるんだよ。


消し去りたい記憶、あの街の記憶、んふふ。


賛成、いらない♪


「雪は勘弁だぜ」


「キョウ、あまり傷口のある方に比重を」


「難しいぜ、血が滲むのか……あのあり得ない雪よりも俺の体の方がよっぽど普通だぜ」


「そーだね」


「夢見は良かったはずなのにな、キョウも見てたろ?お前は俺だもんな、だけど雪が降るんだ……悲しいわけでも辛いわけでも無いのにな」


「溶けなくて積もらない雪、キョウはずっと一緒にいたかったんだねェ」


「んー?誰と?」


「キョウを裏切った裏切り者だよォ、だからこんな雪を降らせる必要は無いんだよ」


どいつもこいつもキョウを置き去りにして消えた、そしてキョウは死んだ、死んでしまった。


そして今の『キョウ』と私が誕生した、過去のキョウも過去のみんなもいらない、今の二人があればいい。


「私だけしか残らないよ、キョウ」


みんな雪のように消えて。


最後に残ったのが貴方と私だから。

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