閑話199・『偽雪』
湖畔の街に雪が降る、別に悲しいわけでも辛いわけでも無い、しかし俺の心情を反映した世界だ。
違和感しか無い、首を傾げながら雪を手で掴む、溶けるわけでも無い、積もるわけでも無い、不思議な雪。
現実世界ではあり得ないソレ、先程まで寝ていた、現実世界で寝てこの精神世界で寝て、二重の睡眠、改めて考えるとシュールな生き物だな俺。
悲しい夢では無かったはず………誰かと一緒に薄暗い路地裏のような場所で遊んでいた、とてもとても楽しいのに最後はみんないなくなる、だけど寂しくも悲しくも無い。
だって最後はちゃんと俺も消えるから、だから大丈夫。
「雪だぜ」
「………ほら、キョウ、風邪を―――」
「キョウっ!!」
「へぁ!?い、いきなり抱き付いたら危ないでしょうがっ、全く……」
キョウを探していたらキョウがいた、当たり前な事なのにどうしてだろう、何か満たされるようなモノを感じてキョウに飛び付く。
雪で滑りそうになる勢いそのままに抱き付いたので二人一緒に倒れる羽目になる、冷たさの無い雪は積もるわけでは無い、浅く浅く地面の表面に残り光の粒子となって消えてゆく。
それでも俺の奇行を後押しするには十分だ、積もっていないので地面のダメージそのままに激痛で転げ回る俺、受け身をとったキョウは呆れ顔で俺を見詰めている、雪のように白い肌が桃色に染まる。
「いてぇいてぇいてぇ」
「そりゃそうでしょうに、ほら、立ちなァ」
「うぅ、キョウが俺をちゃんと抱き締めてくれなかったからだぜ」
「な、何をォう」
「痛いのは全部キョウのせいだぜ!ほら!膝小僧から血が出てるもん」
「な、う……ごめぇん」
しゅんとするキョウを抱き締めて傷口を見せて抗議する、体勢的にキツイ、それを振り解いて手早く傷口に応急処置をしてくれるキョウ、傷口を清めてハンカチで処理する。
こいつってこうやってるとマジでシスターみたいだなァ、いやいや、マジでシスターなんだけど細胞的にっ、この世界での傷口は現実には影響しないはずだが痛いものは痛いしな。
降り注ぐ雪の量は増すばかりで止む気配は無い、しかし積もる事は無いので何も心配はいらない、そんな呑気な事を思ってたらあまりの降雪に視界が染まって何も出来無くなる。
屋内に避難。
「雪は勘弁だぜ」
「キョウ、あまり傷口のある方に比重を」
「難しいぜ、血が滲むのか……あのあり得ない雪よりも俺の体の方がよっぽど普通だぜ」
「そーだね」
「夢見は良かったはずなのにな、キョウも見てたろ?お前は俺だもんな、だけど雪が降るんだ……悲しいわけでも辛いわけでも無いのにな」
「溶けなくて積もらない雪、キョウはずっと一緒にいたかったんだねェ」
「んー?誰と?」
「キョウを裏切った裏切り者だよォ、だからこんな雪を降らせる必要は無いんだよ」
満面の笑みのキョウが絡み付いて来る、とぐろ、一瞬何かを思い浮かべるがすぐに消えてしまう、それこそ雪のように刹那に消えてしまう、何も残らない。
キョウしか残らない。
「私だけしか残らないよ、キョウ」
雪の量は増すばかりで、何も頭に入らない。
何も。
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