第375話・『餌を決めるのは姉』

姉ちゃんを仕留められ無かった俺は死んだように眠った、全力で絞め殺そうとしているのに笑顔で頭を撫でられるのは苦痛だった。


あのドラゴンが天命職………だとすれば俺より年上って事になる、まあ、人工生物だし、ドラゴンは長命の種が多いし納得出来る、それを聞き出すのにかなり苦労した。


姉ちゃんを抱き締めたまま怨嗟と呪怨に塗れた言葉を垂れ流す俺、藁に塗れてそれを延々と繰り返す、微睡から目覚めれば気分はすっきり、まだあいつは帰って来て無いのか?


何たって俺を殺そうとしたぐらいだ、いや、俺が殺そうとしたから殺そうとしたのか?まあ、どっちでもいいか、姉ちゃんと一緒にいるのを見られるのはまずい気がする、浮気現場。


いやいやいや、姉弟だし、あいつは単なる知り合いだし。


「つまりあいつが天命職だから油断するなって言いたかったのか、死ねェェ」


「………ん」


膝枕の上に顔面を突っ込ませながら両手を麒麟の細胞に書き換えて絞め殺そうと頑張ってます、だけど麒麟の人外の筋力でも一応は人間のはずの姉ちゃんの肉体にダメージを与える事は出来無い。


どんだけ鍛えたらこんな風になるのか想像も出来無い、しかも単に硬いだけでは無く女の子特有の柔らかさもあるし、ロリ臭いしな、ミルクのような匂いと柑橘系のソレ、くんかくんか、良い股間の匂い。


くんかくんか。


「………おおぅ」


「くんかくんか」


「………めんたい」


「?めんたいって何だよ」


「…………めんこいの最上級」


知らなかったぜ、しかし天命職云々は別に具現化しなくても伝えられただろうに、具現化に伴う体力の消耗を考えたら割とキツイ、強力な一部ほど体力を激しく消耗する、流石に魔王軍の元幹部勢や麒麟と比較すればそうでも無いけどさ。


エルフライダーの能力に狂って不調な俺には………ああ、だから具現化してくれたのか、俺の面倒を見る為に、そもそも俺をここに連れ込んだあいつが全く戻って来ない、違和感に首を傾げる、何かに巻き込まれた?よっこいしょ、姉ちゃんを抱き締めたまま持ち上げる。


あいつの巣穴から出る、探しに行くか。


「………新世界」


「新世界?ああ、姉ちゃん小さいからな、背負ってあげる」


流石に肩車はこの地形では危ないしな………妖精の感知を広げる、先程ドラゴンを見た場所よりもより深い場所にいる、あと何だか良く分からん気配が幾つか感知出来る、今までに感知した事の無い独特の気配、これまた人工臭いがそれよりも不快感がある。


外はもう夜かな、この洞窟には朝も夜も無いからなァ、姉ちゃんはあれだけ鍛えていて筋肉の鎧を纏っているはずなのにめちゃくちゃ軽い、この人に突っ込むのはもう止めにしよう、はいはい、姉ちゃんも人外人外、弟とお揃い。


俺とお揃い。


「何だァ、ドラゴンちゃんに変な奴らが付きまとってる」


「………とぁ」


「いてっ、はいはい、走れば良いんだろう……全く」


景色が一瞬で切り替わる、麒麟の細胞を活性化させればこのような芸当もお手のモノだ、妖精の感知を使って障害物を避けながら一気に洞窟内を駆けてゆく。


「………餌」


「あん?」


「………天命職は可愛い弟の餌♪」


姉ちゃんが嬉しそうに呟いた、俺の意思など無視するように。


あいつは餌じゃ――――。

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