第371話・『跨るのはだれが正解』

ドラゴンを見るのは初めてでは無い、しかし水竜と呼ばれるものは初めて見る、異様に高い天井にも納得する。


四肢は完全に鰭状に進化している、尾は異様に短く、水生生活に適応している事がわかる、長い首と小さな頭、胴体と比較するとややアンバランスだ。


数えれる程の数だがその巨体に驚く、しかし瞳は穏やかで獰猛では無さそうだ……口には無数の鋭い歯を備えているようだが歯並びの良さを見て何だか安心する、変なの。


オール状の鰭(ひれ)をゆっくりと動かして遊泳する様は中々に優雅なモノだ、グロリアはいないな??そもそもグロリアはこいつを俺に見せる為に来ただけで興味が無いのかな?


「可愛いぜ」


「のだ」


「お前も可愛いのな」


「の、だ」


あれもドラゴンだがこいつもドラゴンだ、どちらも俺の大好きなドラゴンで俺はついつい嬉しくなる、しかし目の前のドラゴンへの感動よりも腕の中のドラゴンの柔らかさに集中してしまう。


自然な生き物と人工的な生き物、俺自身の肉体が後者に寄ってるからこいつを選んでしまうのか?クスクス笑うと不思議そうに見上げて来る、俺に簡単に捕まっているお前の神経の方が不思議だぜ。


エルフライダーがどんな生き物か知らない癖に。


「こいつ等を護る為にお前はここで生活しているのか」


「そうなのだ……君のようにとんでもない存在が訪れても大丈夫なように」


「それに捕まってるから大丈夫じゃねぇだろ」


「うぅ」


こいつどんくさい………そしてそれ以上に感じたのは『懐きやすい』生き物だって事だ、組み込まれているドラゴンが人懐っこい種なのかわからねぇけど……普通ならもっと暴れて抗議しても良いだろうに。


マジマジと広がった瞳に俺の姿が映し出される、縦長の瞳孔は竜種の証とも言える、桿体細胞の発達した生物の特徴であるソレは夜行性の動物である証、縦に長いスリット状の瞳孔を見詰めながら溜息を吐き出す。


人外の瞳は灰色狐を始めとして親しみのあるものだ、今の俺の瞳も同じように変化してるだろうしなァ、しかしこうやって見ると獣の瞳ってホントに綺麗だな、ふんすふんす、ついつい興奮してしまう。


「このドラゴンには乗れるのか?」


目の前のドラゴンより腕の中の少女に惹かれている事が悔しくて苛立ってしまう、ドラゴンに憧れる俺は何処へ消えたのか、いや、腕の中の少女もドラゴンだ、様々な言葉が脳裏に飛び交う。


ざーざーざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、あまりに長い砂嵐が続く、時間は停止して停止した間は何処までも何処までも伸びる、触れているものも見えているものも全てが遠くなる。


どらごん、こいつもどらごんだから、ドラゴンだから、どらごん、跨ればどらごんらいだー、えるふらいだーじゃなくてさ、夢見続けたどらごんらいだーになれるんじゃねぇの?だれかがやさしくつぶやくけれど。


そうしたら、また、ともだちになりたいと、ねがったものを、こわしておわるんじゃないの。


ころしておわる。


「うぅうう」


どらごんにまたがるためにぼうけんのたびに。


ドラゴンに跨る為に冒険の旅に。


ドラゴンライダーに。


ドラゴン。


ともだち。


「またがる」


またがるのはドラゴンだっけ、友達だっけ。


なんだっけ。

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